TOP>文庫一覧>王太子の添い寝係~ふたりの夜は甘く淫らに~
王太子の添い寝係
~ふたりの夜は甘く淫らに~
京極れな イラスト/YUGE
行儀見習いを兼ねて王妃のもとで働いていた伯爵令嬢アニーは、ある日突然、王太子ウィリアムの寝室係になるよう命じられる。アニーは不眠に悩むウィリアムに髪を気に入られ、「髪を撫でたい」と乞われて添い寝をする。翌朝、ひさしぶりよく眠れたと彼は喜び、毎晩添い寝することに。ウィリアムが寝言で呼ぶ「ローズ」の存在が気になるものの、アニーは彼に心惹かれ、キスしたり身体へ触れきたり――エスカレートしていく行為を止められず…? 配信日:2017年9月29日 


「もっとこっちにおいで。これじゃひとりで寝てるのと変わらないじゃないか」
 ぎりぎりの端っこで硬くなっているアニーを見て、ウィリアムが苦笑する。
「ベッドが広すぎるのがいけないのだわ」
「だから僕のそばに来ればいい。そうしたら淋しくない」
「淋しい? ウィリアム様は淋しいのですか?」
 アニーは目をみひらいた。それがこの人の悩みだろうか。
 ところが、
「さあ、なんとなく言ってみただけだよ。でも人肌が恋しくなるときはあるな、今夜みたいに」
 ウィリアムのほうがすり寄ってきて、ためらっているアニーの身体を抱き寄せた。
「や……っ」
 胴にいきなり逞しい男の腕が絡み、アニーは口から心臓が飛び出そうになった。
 他人と、こんなにもぴたりとくっついたことはない。ダンスのとき以上だ。ましてや場所がベッドの上で、相手は我が国の王太子だなんて――。
 身体を密着させるだけで、ふたりのあいだに流れる空気は驚くほど親密なものになっている。
 アニーがウィリアムの体温にめまいを覚えていると、
「キスしてもいい?」
 追い打ちをかけるように、耳元で囁かれた。
「こ、困ります」
 アニーは耳まで真っ赤になるのを感じた。ベッドに入れば、やはりこういう流れになってしまう。
「おやすみのキスをするだけだよ」
 彼のしなやかな肢体がアニーの身体に絡みつき、彼のほうを向かされた。
 ほんのすぐそばまで、ウィリアムの顔が迫っている。その息づかいがわかるほど近くに。
「いいよね、アニー?」
 ほとんど唇がふれあう距離で、もう一度問われた。そしてアニーが答えるのを待たず、彼はそっと唇を押し当ててくる。
「ん……っ」
 唇に――?
 てっきり頬だと思っていたのに、それがふれたのは唇だった。
 拒む間はなかった。柔らかで張りのある彼の唇が密にかさなり、呼気を奪われた。
 はじめての感触にアニーは驚き、うろたえ、思わず顔を背けてしまった。
「こ、こんなのおやすみのキスじゃないわ」
 まさか、唇にするなんて。
「どうせ眠らないからね」
 ウィリアムは悪びれもせずに言う。
「でしたら、わたしはベッドから降ります」
 アニーは身を起こそうとした。このままではダリルの言ったとおりになってしまう。
 が、ウィリアムにすかさず肩を押さえ込まれた。
「だめだ。僕を気持ちよく眠りに導くのが君の仕事だろう、アニー?」
 いつになく色めいた目をして問われる。
「キ、キスをすれば気持ちよく眠れると仰るのですか?」
 アニーの面に怯えが滲む。
「そうだよ。友人から聞いたんだ。すればするほど効果があるらしいよ。試させて?」
 そんなことは聞いたことがない。
「い、いけませんっ、効果があるとは思えません」
 やはり寝室係とは、夜伽の役目も含んでいるのだ。
「キスするくらい、いいじゃないか、減るもんでもないんだし。猫に噛まれたとでも思っておいてよ」
 ウィリアムに引き下がる気はないようだった。顔を背けて抵抗するアニーの顎先をとらえ、いとも簡単に彼のほうを向かせ、強引に口づけてきた。
「んぅ」
 猫といっても、とんでもなく高貴な猫だ。しかも、しつこく角度を変えて舐めるように押しつけてくるから噛まれたどころではない。
 アニーの息が苦しくなるまで、彼の唇ははなれなかった。
「どう? 眠くなってきたかい?」
「な、なるわけがありません……っ。ウィリアム様は?」
 アニーは思わず素直に問い返してしまう。自分の役目は彼を眠りに導くこと。たしかにこれも仕事のうちだ。
「さっぱりならないな。続きがしたくなってきただけだ」
「つ、続きですかっ」
「もしかしてキスするのもはじめて?」
「えっ」
「だって震えてるし、顔も真っ赤だし、下手クソだし」
「申し訳ございません……」
「かわいいって言ってるんだよ? もっとたくさんしたくなる。しようよ、アニー」
 ウィリアムは甘くほほえみながら、ふたたび唇をかさねてくる。
「ん………」
 あやすように髪を撫でながら、ごく自然に迫ってくるから、つい流されてしまった。
 気づくと、またも彼に口づけられていた。
 三度目ともなれば、互いの唇がしっとりと馴染んで、口づけの感触にも少しは慣れてきた。
 それでも、どうしてもこれをおやすみのキスとは思えない。アニーはうろたえてしまう。
「唇に無駄な力を入れてたらだめだ。舌を挿れられないだろう?」
 ウィリアムがいったん、唇をほどいて言う。
「し、舌は挿れられなくてよいので……」
 アニーは耳まで真っ赤になった。舌が自分の中に入るだなんて。
「どうして? 挿れてしたほうが眠くなるかもよ?」
「そんなわけありません。むしろ目が覚めるわ」
 いったいどういう理屈なのだ。そもそも、アニーが眠くなっても意味がない。
「いいから、もう少しゆるめてごらん?」
 ウィリアムの人差し指がアニーの下唇にふれ、そこを優しく開けようと促す。
 落ち着いた声でゆっくりと命じられ、アニーは魔法にかけられたかのように彼のいいなりだった。
 次いで、彼が顔をよせてきて、ふたたび唇を塞がれた。
「ん……」
 下唇をやんわりと食まれ、じんと身体の芯が痺れる。
 それから、何か柔らかで熱いものが舌先に触れて、アニーはどきりとした。上唇を舐められ、 それがウィリアムの舌だと気づいた。
「ふ……」
 そのまま、彼の舌が入ってきた。アニーは怖気づいて自分の舌をひっこめてしまった。
 すると口づけはいっそう深くなった。彼が奥に逃れた舌を探るかのように追いかけてくる。
「ふ……ぅっ……」
 はじめての感触にどきどきと鼓動の高鳴りが増す。
 口づけられながら、アニーはウィリアムに何かを奪われていくような錯覚を抱いた。
 なにかしら……? それが何かはわからない。けれど意思も五感も彼に搦め取られるのと同じに、どんどん奪われてゆく。
 やがて彼の手が、アニーの乳房を愛撫しはじめた。
 アニーはびくりと肩をゆらした。
 ウィリアムの五指が絡みつくようにふくらみを揉みしだく。
「ん……、っふ……」
 口づけられながらそうされていると、ドレスの布越しとはいえ身体が火照り、妙な心地になってきた。
 かさなりあった唇から、吐息がこぼれる。
 おかしな気分に耐えられなくなったアニーは、乳房を愛撫する彼の手を押さえた。
「な、なにするのですか……」
 咎めるように彼を見上げると、
「キスだけで眠れるわけがないじゃないか。その続きもしないと」
 なだめるように言い、今度は首筋に口づけてくる。
「そんな……、あ……」