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王立学校の秘蜜な異性交遊

京極れな イラスト/氷堂れん

キーワード: 西洋 王子様 初恋 男装

王立学校の寄宿舎が夏季休暇に入った日、ハミルトン子爵家の令息・ルイスが行方不明になる。彼は新年度直前になっても見つからず、双子の姉であるシェリルは、体面を重んじる両親から「ルイスのふりをして学校へ行け」と命じられてしまう。休暇中、高熱に倒れて生死の境をさまよったせいで記憶が曖昧なふりをしつつ、なんとか寄宿生活を送っているが、ルームメイトでウェステリア王国の第二王子マリユスに口説かれ、冷や汗ものの毎日だ。そして、シェリルとして出席した仮面舞踏会で、しつこく絡んでくる男から助けてくれたマリユスに淫らに触れられてしまい…? 配信日:2021年11月25日 


 熱を帯びたそのまなざしに耐えられなくなって、ふたたびシェリルは目を伏せた。
 ルイスのときとはあきらかに異なる熱い視線。寄宿舎でキスをしてきたときのマリユスは、たしかにこんな目をしていた。ほんとうに、ルイスの中にシェリルを見ていたのだろう。
「シェリル……、僕を見ろ」
 やんわりと甘い声で命じられ、シェリルはおずおずと視線をあげる。
 マリユスの美しい碧眼が間近にある。
 彼の視線がほんのひととき唇に降りて、キスしようとしているのがわかった。
 シェリルは、一旦は目を閉じかけたものの、彼の唇がふれそうになる直前で顔をそむけた。
「待ってください。まだ、出会ったばかりなのに……」
 少なくともシェリルとは初対面だ。あまりにも性急すぎる。
「キスははじめて?」
「…………」
 このまえマリユスに強引にされたので、否定も肯定もしないでいた。
 それを恥じらいととらえたらしいマリユスが、ふっと笑ったのがわかった。
「恋愛に時間の長さなんて関係ない。惹かれあった者同士なら、一夜で燃え上がるものだよ。今夜の僕たちみたいに」
 一夜で燃え上がる恋なんて、ただの遊びにすぎない。翌朝とは言わないが、数日が過ぎれば夢のように忘れられてしまう泡沫の情熱だ。
「マリユス様には――」
「ん?」
「婚約者がいるではありませんか」
 いくらか責め口調になったかもしれない。こういうことは思っても口にせず、おとなしく口説かれるのが流儀なのだと心得ているのに。
(でも私には……)
 どうしても割りきることができない。遊びの恋なのだとわかりきっている相手と関係を持つなんて不毛だ。
「婚約は、便宜上のものにすぎないよ」
 マリユスは淡々と答えた。ルイスにもおなじことを言っていた。あのときから、真意がつかめなくてひっかかっているのだが。
「それでは、エミリア嬢に対して不誠実だわ」
 彼女だって、愛のある結婚を望んでいるだろうに。
「どうして君がエミリアの心配をするの。今の君には関係ないんじゃないか?」
「あります。今ここで私たちが一線を越えて、なにか間違いが起きたりしたらどうなるの?」
「間違いとは? もしかして身籠もったりしたらということ? 君となら喜んで子作りするよ」
 マリユスは茶化しながら、シェリルの腰に手をまわしてくる。
「まじめに話してください」
 シェリルはマリユスの手をうち払おうとした。が、阻まれた。
「ルイスとおなじで、きみもお人よしだな、シェリル。もっと自分の気持ちに素直になればいいのに」
 シェリルの手を摑む彼の力はことのほか強い。
「こうやって女の人を口説くのですね」
 心理的に追い詰めて畳みかけてくるこの巧妙さには感心してしまう。学業と同様に、女性の扱いにも長けているようだ。
「僕がそんな、色好みの不実な男に見える?」
 心外とばかりに問われ、シェリルはつんと顔を横にそむけた。
「そうにしか見えません。でなければこんな連れ込み部屋に女性を誘ったりしないもの」
「僕は遊びで女性を抱くような男じゃないよ」
「自分で弁解する時点でおおいに疑わしいわ」
「なら、もっと僕を知って、疑いを晴らせばいい」
 マリユスは神妙に告げたきり、もう待てないとばかりにシェリルの唇を奪った。
「ん……っ」
 寄宿舎での行為が一気に脳裏によみがえった。
 けれどルイスだったときと、今夜の自分は違う。今はシェリル=ハミルトンという令嬢で、マリユスと結ばれることにはなんの弊害もない。ただ、婚約者の存在をのぞいては。
(問題はそこなの……)
 本気になっても遊びの恋にしかならないからだめなのだと、理性が訴えてくる。
 一方で、心とはうらはらに身体は熱を帯びて、脳の髄が痺れるような感覚にとらわれはじめていた。
 マリユスの口づけは甘くて淫らだ。唇をかさねあわせていただけなのが、いつのまにか唇を割って、舌を差し入れられている。
「ん……ぅ」
 熱く柔らかな舌が、シェリルの口内をいやらしく舐めまわす。
 音をたてて下唇を吸いたてたかと思うと、また舌をぬるりと挿入したり――。
(なんてふしだらなキス……)
 けれど味わうような淫靡な舌遣いには、不覚にもぞくぞくした。得体の知れないその感覚に、なにかが呼び覚まされるようなのだ。下肢の深いところで疼いているなにかが。
(あ……)
 マリユスの手が胸元におりた。
 シェリルは身を固くした。出会ったその日にこんな行為に及ぶなんて、さすがに抵抗がある。いくら社交界の裏舞台がみな、こんなふうなのだとしても。
 マリユスは、ドレスの上からやんわりとふくらみを揉みしだく。
「いや……」
 シェリルは思わずマリユスの肩を押し返してしまった。そのままソファから立ち上がろうとするが、マリユスに腰を押さえとどめられた。
「どうして逃げるの?」
 問いかけてくるマリユスの声は優しい。
「だって……、こんなことをして、婚約者のことを思い出さないのですか?」
 とっさにそんな言葉が口をついて出てきた。やはりエミリアの存在が気になっているらしい。
「思い出さない」
 マリユスがきっぱりと言い切るのでシェリルは目をみはった。
「私がエミリアだったら泣くわ」
 マリユスにこんな冷徹な一面があるとは思わなかった。
「そもそも僕も、君が婚約者なら、こうはならない」
「…………」
 それは、エミリア側になにか問題があるということなのだろうか。しかし詳しく語ってはくれない。
「あまり思い詰めるな、シェリル。もっと心のままに、自然に楽しめばいいんだ」
「楽しめるわけありません……、こんな火遊びみたいな真似……」
 シェリルは恥ずかしさのあまり、胸元を押さえる。なにもかも生まれてはじめてのことで、動揺がおさまらない。
「火遊び? 僕は本気だよ。君だって、今、僕と遊びで話しているわけじゃないだろう?」
 顎先をすくわれ、ふたたび彼のほうを向かされる。
「それは――」
 たしかにその通りだ。
 じっと真っ向から見つめられて、息もろくにできなくなってくる。
「君はきっと、明日も明後日も、僕のことを考えるよ」
 マリユスが意味深な笑みを浮かべて言う。
「そんなこと……どうして言い切れるの……」
 まるでそのことを見抜いているみたいに。
「いま、キスして確信したんだ。君が、僕に夢中になると――」
 暗示をかけるような低く甘い声に、意識を搦めとられそうになる。
 でも、わかる。その通りに違いない。明日も明後日も、マリユスのことを考えるだろう。これまでだってそうだったのだから。
「大丈夫だよ、シェリル……」
 落ち着いた声は、寄宿舎で勉強を教えてくれるときの彼を思わせた。数式が、性の手ほどきに変わっただけのことなのだ。そう思えばいい。
 シェリルが大人しくなると、マリユスはふたたび、あやすような軽い口づけを与えながら乳房を愛撫しだす。
「ん……」
 ドレス越しとはいえ、彼の掌の感触が伝わってきておかしな気分になってくる。
「キスには慣れた……?」
 マリユスは舌や下唇を甘く吸いたて、わざとその音を聞かせて煽ってくる。
「ん……」
 深く濃密な口づけは、シェリルの五感を昂らせた。彼に求められるのがなぜか心地よくて、もっとしていたくなる。
「ぁ……ふ……」
 徐々に呼気が乱れ、吐息が少しずつ声になってこぼれはじめる。
「は……ん……」
 ふくらみを揉みしだかれ、淫らな口づけをくりかえされるうちに、下肢のどこかに熱が籠もりだす。それがどんどん濃く大きくなってゆく。
(マリユス様……)
 シェリルは自分の中に欲情がくすぶっているのをはっきり感じた。
「シェリル……、色っぽい表情になってきたな。ますます君が欲しくなる……」
 口づけの合間に、マリユスがうっとりとシェリルを見つめて告げる。
「マリユス様の……せいよ……」
 酩酊したような心地でいると、乳房を愛撫していたマリユスの手が下肢のほうに降りてきた。そのままおもむろにドレスの裾を捲り、内腿を愛撫しだす。
「あ……」
 素肌に彼の手がふれ、どきりとした。秘処でもない場所でも、驚くほど敏感になっていた。
 マリユスは下肢の付け根に向けて、ゆっくりと内腿を撫であげる。
「あ……」
 刷毛でなぞるような、かすかな感触、それが焦れったくて、シェリルはひくひくと内腿を震わせてしまう。
「感じてるね、シェリル……?」
 脚の付け根に辿り着くと、這わせた指先でドロワーズの股ぐりをなぞりだす。
「あ……っ」
 秘処の際にふれる形になって、シェリルはびくんと腰をはねさせた。
「君が気持ちよくなれるところを探してあげる」