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無慈悲な王が奏でしは囚われの歌姫

みかづき紅月 イラスト/吉崎ヤスミ
歌姫として働く少女エルザは、美しく傲慢な王ルーヴィスに狩猟城へと連れ去られ、「俺のために歌え」と命じられる。
「もっと美しい歌声を俺に聴かせろ」ルーヴィスが満足するような声が出るまで、エルザはルーヴィスの甘く激しい愛撫に攻めたてられる。完璧主義の芸術王ルーヴィスは、エルザをありとあらゆる方法で「啼かす」ことに執心して…!?
発売日:2013年7月3日 


 エルゼを横抱きにした青年が、月灯亭から外へと出たところで、彼女の耳元に
囁いてきた。
「何も心配するな。悪いようにはしない。俺のためだけに歌え──」
 声色は甘やかなのに、その口調は有無をいわせない強いもので、エルゼは首を
横に振ることができない。
 それどころか、反射的に頷いてしまうのをなんとか我慢するので精一杯だった。
 すると、青年が語気を強め、熱い吐息混じりに、もう一度彼女の耳元で命じた。
「返事はどうした? 俺のためだけに歌え」
「……あ、あぁっ」
 びくっと細い肩を跳ね上げると、エルゼは小さな悲鳴をあげ、耳を塞いでしまう。
(いや、そんな声で囁かないで。おかしく……なってしまいそう……)
 彼の低い声が鼓膜に沁みこみ、胸が強く締めつけられる。
 今まで、こんな激情に駆られたことはなくてエルゼは混乱していた。
 その初々しい反応が、どうやら男の狩猟本能を刺激してしまったようだ。
「聞き分けのないカナリアだ」
 嗜虐心を露わにした男が、耳を塞いだエルゼの手に舌を這わしてきた。
 彼の舌は、エルゼの指と指の間、付け根を執拗に舐めてくる。
「う、っく……や、ぁ……あぁ」
 妖しい心地よさとくすぐったさとに、エルゼは顔をしかめながら、彼の舌から
逃れるため、耳を塞いでいた手を下ろしてしまう。
 だが、それは間違いだったとすぐに気づく。
 青年の濡れた滑らかな舌が、エルゼの耳の中へと侵入してきたのだ。
「や、あ、あぁ……そんなっ、いやぁ……」
 エルゼは彼の腕の中で全身をびくつかせて、ひそやかに甘い悲鳴をあげた。
 自分でも信じられないような甘やかな声が出てしまい、恥ずかしくていたたま
れない気持ちに駆られてしまう。
 そうこうしている間にも、彼の舌がエルゼの耳の形をいやらしくなぞってくる。
「うぅっ……く、うぅ……」
 エルゼは、できるだけ彼から顔を遠ざけ、唇をきつく噛み締めて声を堪える。
 が、彼の舌は執拗に彼女を責めたててくる。
 粘着質な水音が頭の中に反響し、脳を揺すぶってくる。
 妖しい興奮が瞬く間にエルゼの胸に拡がり、今にも弾けてしまいそうになる。
「いい声だ。もっと聴かせろ」
 エルゼが抵抗すればするほど、青年の表情には愉悦が拡がっていく。
「んんっ、っン……っふ……っく……」
 口元を両手で覆うと、エルゼは目をきつく瞑って身悶える。
 耳を舐められているだけで、どうしてこんなに乱れてしまうのか分からず、混
乱は加速していく一方だ。
「──啼けと言うのに。なぜ我慢する?」
 青年が苛立ちを浮かべた声で囁いたかと思うと、彼女の耳をきつく噛んだ。
「っ!? あぁあっ!」
 エルゼは、たまらず甲高い声をあげてしまう。
 刹那、彼女の下腹部の奥で熱い疼きが弾け、全身に電流がはしった。
 激しく身体を痙攣させたかと思うと、エルゼは彼の腕の中でぐったりと死んだ
ように動かなくなってしまう。
「まさか今ので達するとはな。初心なくせに、ずいぶんと敏感なカナリアだ」
 意地悪な響きを持つ彼の言葉を遠くに聞きながら、エルゼは重いまぶたをうっ
すら開いて彼を睨みつけた。
 すると、男は彼女に肩を竦めてみせる。
「まあ、そう怖い顔をするな。ただのちょっとした戯れだ」
「…………」
 エルゼはまったく悪びれる様子のない彼に絶句してしまう。
「あ、あんな……恥ずかしいこと……戯れだなんて……」
 いまさらのように彼に対する怒りが、沸々とこみ上げてくる。
「ああ、そうだ。いわば、試し弾きみたいなもの。本気で俺が君を奏でたら、こ
んなものでは済まない。じきに分かる──」
「っ!?」
 青年の意味深な言葉にエルゼはびくっと身体を反応させてしまう。
 なぜか胸が妖しくざわついて、身体の奥に得体の知れない仄かな熱がこもる。
「どうした? そんなに早く奏でて欲しいか? なんならここで奏でてやっても
いい。村人たちに淫らな歌を聴かせてやるか?」
「っ!? ち、ち、違います! 誰もそんなことは言って……」
 ムキになって反論するエルゼの首筋に彼の唇が触れてきたため、エルゼは言葉
を中断せざるを得ず、またも甘く全身をびくつかせてしまった。
 こんな反応見せたくもないのに、そんな彼女の意志とは無関係に、身体がかっ
てに反応してしまう。
(私を奏でる? 淫らな歌? この人、一体私に何をするつもりなの!?)