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王の華嫁
~政略婚の愛に濡れて~
京極れな イラスト/鳩屋ユカリ

キーワード: 中華 媚薬

北郢(ほくえい)国の公主・翠玲(すいれい)が結婚させられたのは、父の仇である濟(さい)国王・耀成(ようせい)。初夜に耀成を暗殺するつもりだったが失敗してしまう。だが彼は翠玲を罰するどころか、妻として愛すると宣言して…!? 発売日:2014年12月26日 


「素直に抱かれたほうが楽になれると思うぞ?」
 耀成(ようせい)がにやりと不穏な笑みをはいて、衣越しの乳房に手を這わせてくる。
「あ……」
 翠玲(すいれい)はびくりと肩を震わす。
 男の五指がふくらみにめり込む。その奇妙な感触が、薬のせいで気持ちいいと思ってしまう。
 耀成の言うとおりだった。この疼きはおそらく、男に抱かれて満たされなければ収まらないのだ。しかし、このまま凌辱されるなんて耐えられない。
「いや……、わ、私に……さわらないで……」
翠玲はなんとか理性を呼び起こし、彼の下から逃れようと身を捩る。
「そんな手負いの獣みたいな目で見られてもな」
 耀成は冷ややかに苦笑する。なるほど、たしかにいまの自分は荒んだ目をしているだろう。心とからだが繋がっていないのだから。
「大嫌いなくせに! あなただって、儀式のときからすごく冷たい目でわたしを見てた。ずっと傷めつけるために牙を研いでいたんでしょう、その牙でかみつけばいいわ!」
 翠玲は一変して憎悪をむき出しにする。けれど、それも長くは続かない。じきにまた、意識がくらりと霞がかかったようになって、四肢は抗う力を失ってしまう。
「激しいな。だが、それでいい。強い女は好きだよ。奪いがいがあるからな」
 耀成は、息巻く翠玲の左腕を押さえつけ、右手で細い顎先をつかむ。
「北郢国を……恨んでいるのに……」
 顎先をつかまれた翠玲は、わずかばかりの理性をふりしぼって耀成を睨みあげる。
 目を見ればわかる。それこそ手負いの獅子のような荒んだ光を隠し持っている。
 それでも国のために抱くのだ。心底憎んでいる相手の娘を。
 すると耀成は美貌を歪め、険のある笑みを浮かべる。
「よしてくれよ。せっかくわいて湧いてきた情が失せてしまうじゃないか。それとも、乱暴にされたいのか? 俺はどっちのやり方も好きだからおまえが望むように抱いてやるよ?」
 女遊びはお手のものというわけなのだ。翠玲は余裕綽々としている耀成に唾でも吐いてやりたくなった。
 しかし、それは叶わなかった。彼の美貌が近づいたかと思うと、唇をふさがれたからだ。
「ふ……」
 すかさず唇の隙間に舌がぬるりと入り込んできて、翠玲の口内を蹂躙する。
彼の舌に口内を満たされ支配されるのは、やはり媚薬のまわった翠玲のからだには心地よかった。ほのかに苦みのある白酒の味がして、互いの呼気と唾液が、かさなりあった唇のあわいでひとつに蕩ける。
 慣れないその感覚に動揺する一方で、じんと脳髄が甘く痺れたようになる。
「ん………」
 こんな屈辱的な行為を快く感じてしまうなんて。
 そう思うのに、髪を梳かれ、濡れた舌先を甘く吸われると、無意識のうちに自分からも応えてしまう。
「ふ、ぅ……」
 互いの舌がいやらしくこすれあう。
 耀成は、翠玲が我に返って抗おうと思うころになると、顔の向きを入れかえ、やんわりと舌を挿入してそれを封じる。そして先端をからませるような淫靡な舌遣いで、もっとさせろと誘いかけてくる。
 翠玲は、頭のどこかで警鐘が鳴っているのを知りながらも、彼の行為に導かれてずるずると官能の淵へとひきずりこまれていってしまう。
 すると、ふっと耀成の唇がはなれ、口づけが耳朶のほうにうつってきた。
 左の手では、衣越しに乳房を愛撫しだす。
「あ……」
 翠玲はのろのろとその手を退けようとするが、媚薬に侵されて力を失ったその手はなんの抵抗にもなりえなかった。
 彼の唇が耳朶を這う。ときおり濡れた舌先に耳殻をくすぐられて、ぞくりとする。ほどかれた唇から溜め息が出そうになって、翠玲は必死でこらえた。薬なんて飲まされていなければ不快極まりない行為なのに、からだの芯は熱く熟れてゆくばかりだ。
「はやく脱ぎたいだろう? 脱がせてやるよ」
 耀成が意地悪く囁いたかと思うと、精緻な刺繍のほどこされた大帯を引っ張るようにほどき、荒々しい手つきで懐をひらいた。
 ふるりとかたちのよい乳房がまろびでる。耀成はそれを遠慮なく鑑賞しながら、衵服を剥ぎとるように脱がせてしまう。
「い……や……」
 翠玲はせめて下肢だけでも隠そうともがいたが、媚薬に侵された素肌は男からの愛撫を待って言うことをきいてくれず、耀成のからだの下で真っ裸にされてしまう。
 華奢な肩がむき出しになり、ふたつのふくらみがたわみ、なめらかなくびれを描く腰からするりと臀部があらわになった。すっきりと伸びた脚のほうまで耀成の視線にさらされ、翠玲は内腿を閉ざそうとするが、力の抜けたからだではそれもかなわない。
「美しいな。北郢国の女は色白だと言われているが、まさに白雪の肌だ」
 感じ入ったようすで裸体を眺めまわしながら、耀成はあらわになった翠玲の乳房をおもむろにゆっくりと揉みはじめる。
 その手つきは憎らしいほどに官能的で、ふれられたところから、甘い感覚がさざなみのようにひろがってゆく。
「あぁ……」
 ふくらみをつかむ力強い男の五指がなまめかしく動き、翠玲の唇から思わず深い溜め息がこぼれる。
「気持ちいいか?」
 視線を注がれたまま低く艶やかな声で問われ、ぞくりと甘く背筋が震えた。
「い、いいわけ……な……い……」
 翠玲は、睨みつけたいのにできない虚ろなまなざしのまま、やっとの思いで返す。
 言葉とはうらはらに、からだは彼の愛撫に如実に反応している。二本の指先でいじられる頂はいやらしく色づき、ぴんと硬くしこって勃ちあがってくる。
「は……、はぁ……、どうし……て……」
 翠玲は身じろぎして悶えた。憎い相手のはずなのに、ふれられるたびに全身の力が抜けて、もっとそうされたいのだとみずからからだをひらいてしまう。
「薬のせいだ。観念しろ。口応えをするよりも、そうやって悩ましく喘いでいるほうが似合ってるぞ?」
 耀成はからかうような目をして言う。
 侮辱され、怒り心頭になるはずが、媚薬に侵されたからだには彼の声が睦言のように聞こえてしまう。実際、艶やかな声音で囁き落とされ、耳朶にふれる吐息とあいまって脳の髄は蕩けるほどに甘く痺れていた。