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一の酷夜と千の蜜夜

依田ザクロ イラスト/アオイ冬子
【挿絵全点フルカラー】十六歳になったアニースは、ナジュム帝国の若き王イサールへ嫁ぐ日を迎えた。二人の出会いは十年前。初めて会った日、お互い恋に落ちたのだ。それから一度も会えなかったが、肖像画や手紙を贈り合い、恋心は少しも冷めなかった。再会したイサールは強く逞しく、そして美しく成長していた。アニースを抱きしめ、愛を囁き、初夜では甘く蕩かされてしまう。嫁いでからというもの、アニースは溺愛される毎日だが、彼が新たに妃を娶る話が出て…? 配信日:2018年2月23日 


「あ、ああっ、や……ぁっ」
 わけがわからなかった疼きの正体を、ようやく悟る。
 官能の炎が生まれたのだった。
「かわいい顔をしている。気持ちがいいのか?」
 そんなの答えられない。
 戸惑いつつ、朱に染まった目もとを彼へ向ける。
 彼もまた、どこか熱に浮かされた瞳をしていた。赤い舌を突き出し、淫らにふくらみの先端をつついてくる。そのたび、きゅうきゅうと下腹部がよじれた。 
「気持ちよくないのなら、もっと別の場所を愛でてやるぞ」
 彼は乳首ごと乳房へ吸いつき、熱い口中に含みながらたずねてくる。
 歯で堅く膨らむ側面をこすり、舌は細かい振動を送る。腰がくだけてしまいそうだ。
「は……、だめ……。くる……しい、から……」
 息も絶え絶えに訴える。
「苦しい? どこが?」
「お腹……、奥、が……」
「それは大変だ」
 心配げな口とは裏腹、彼は乳房へ歯をたてる。
「あああ……っ」
 かと思えば、わざといやらしい音を立て乳首へ吸いついてきた。
 華奢な肢体が痙攣するのを愉しんでいるふうに。
 冗談だと思われたの? 本当に苦しいのに。
 まるで体が内側で燻されている感じ。
 粘ついたものが膣の奥からあふれだした。とろり、と下着を濡らす。月のものが下りてくる感覚とよく似ていたが、非なるものだった。
 いや……!
 大腿をすりあわせる。けれど、一向に止まりそうもない。
 わたし、とうとうおかしくなってしまったのだわ。
 涙がにじむ。
「アニース、不安げな顔をするな」
 彼はすぐ異変に気づいてくれた。つい先ほどまで雄々しく乳房をまさぐっていた手を止め、頬をなでてくる。愛おしげな手つきだった。
「もしや怖い思いをさせたか? これでも抑えていたつもりだったが、無垢なおまえには酷だったかもしれないな。優しくするから、大丈夫だ」
 幼子をあやすような口調。アニースは落ち着くどころか、逆にいたたまれなくなった。
「違うんです。ごめんなさい、わたし……あなたが怖いわけではなくて」
 彼の執拗な愛撫にとろけてしまう自分の体が怖くなった。
 体に芽生えた得体の知れない熱がもどかしい。
 もっとほしがっているみたい。
 渇望にも似た疼きが体をさいなんでいる。
 だけど、どんな言葉で伝えたらいいのか。伝えたら、はしたない娘だと軽蔑されやしないか。
 どうするべき?
 すがる目で彼を見つめる。
「おまえがほしい」
 イサールは真摯な表情になった。ゆっくりと言葉を紡いでくれる。
「十年前、純真無垢な少女のまなざしに貫かれた瞬間から、俺の心はおまえのものだ。あのときは、この腕へ囲ってずっと眺めていたいと思った。だが、今はそれだけでは足りない。初々しい色香をまとう果実を見つめているだけでは飢えは満たされない。欲深い俺の想いを受け入れてくれ」
 本心を告げられているのだとわかった。
 いつも誠意で満ちあふれていた手紙の中の彼と同じ。
 十年間こつこつと積み重ねられてきた思い出と重なった。
 確かに彼は、わたしの好きな王子さまだわ。
 この方なら、すべてを捧げられる。
 まっすぐ見つめ、うなずいた。
「はい」
「大切にする」
 口づけが落ちてくる。戸惑ってばかりだったが、もう怖くない。
 唇を割って侵入してくる舌を受け入れた。イサールにもアニースの心がほぐれたのが伝わるらしい。これまでで一番情熱的なキスへと変わった。
「ん……ンン……ん」
 口端から攪拌された唾液がしたたり落ちる。
 彼の舌はしずくを舐めながら首筋を伝い、あらわになった胸を愛撫してくる。時折軽く歯を立てては、柔らかな舌でなでつけられた。体へ愉悦が刻み込まれていく。
「は……、ああ……、あん……、ん」
 ベルトを失い緩んだ脚衣へ彼の手がかかる。さらりとふれただけで、魔法みたいに脱げてしまった。
 むき出しの大腿を彼の指先がつっとたどる。体の奥が妖しく疼いた。
「ふ……っ、や、そこ……っ」
 焦らすふうにゆるゆると指がのぼっていき、足のつけ根へ到達した。指先がかすかになぞっただけで、鋭敏な刺激が体を貫く。
「ああぁ……っ!!」
 指が割れ目をなで上げる。ぬちゅりと耳を疑うような音が立った。
「気持ちよかったか」
「やぁ……っ、そんなわけ……っ」
「違うのか? なら、確かめてみよう」
 イサールの手が膝をぐいと持ち上げたかと思えば、割り開いてしまった。大切な箇所が彼の目前へ突き出される。
「やっ、だめ……っ!」
 空気がふれると冷たく感じるのは、そこが濡れそぼっているせいだ。
「いやぁっ、見ない……で」
 両手でまぶたを覆う。自分が目を閉じたって相手の視界を遮れるはずがないのに。
「薄桃色の蕾が、蜜に濡れてふるえている。もう少しで花開きそうだ」
 吐息があらぬ場所へ近づいてくる。さらさらの髪が内股をかすめた。
 なにをしようとしているの……?
 息苦しいほどの動悸がする。
 生あたたかい感触が秘裂を襲った。
「あぁあああ……っ!」
 ひときわ甲高い嬌声がもれてしまう。手を離し、下肢を見る。
 舌を突き出し悩ましく秘裂を舐めるイサールの姿を目の当たりにし、めまいを覚えた。
「や、そん、な……っ、だめ……、汚い……っ!」
 両手で彼の黒髪をつかむ。しかし、舌先を割れ目にねじ込まれると、体が痺れて抵抗なんかできなくなった。
「や……ぁん、あ、あ、あぁ……っ、だ、め……ぇっ」
 口中を淫らにかき回したように、膣壁を執拗にかき交ぜてくる。
 ずちゅずちゅという鈍い蜜音がひっきりなしに聞こえた。さきほどよりもずっと大きくなっている。
「キスがうまいな。いやらしく吸いついてくる」
「そこで、しゃべらない……で……っ」
 声の振動が刺激を深める。
 奥からさらなる蜜があふれてくる。
「見た目はこんな清楚なのに、中は激しく俺を求めてくる。この差異がたまらないな。は……、もう、中へ挿れたい」
 彼は目もとを朱に染め、陶然とつぶやいた。
 挿れたいと言いながら、舌を引き抜く。
 では、なにを挿れるつもりなのだろうか。
 彼は顔を上げ、口を拭いながら問いかけてくる。
「もう充分濡れたな?」
 愛液と唾液で内股はびしょ濡れだった。恥ずかしいが否定できるはずがない。小さくうなずいた。
 彼は自らの脚衣を緩めはじめる。
 すると、いきり立った雄茎が現れた。
 まさか、それを……!?
 とても直視できない。目線を外して、動揺のあまりよれたシーツのしわを数えてしまった。
「そんなに怖がるな。最初は当てるだけにする。できそうだったら、少しずつ挿れていくから」
 割り開かれた足のあいだへ、彼が体を進めてくる。
「あっ」
 蜜口に灼熱の先端があたる。
 火傷しちゃう。
 なめらかな先端が入口で円を描く。粘液がこねくり合う音がした。
「は……ぁん、……っ」
 愉悦がさざ波のように広がり、煩悶する。
 ゆるくほどけていく花びらへ、屹立は頭を埋め込んできた。
「んっ、んん……っ、ぁ……」
 しかし、すぐ引き戻っていく。また周囲をちゅくちゅくとこすり立てはじめた。
 もどかしくてたまらない。
 シーツを握る手に力が入った。花筒が切なく締めつけられ、蜜がこぼれていく。
 なにか、求めている。足りないかけらを与えてくれるのは、この方。
 伸ばした両手で彼の腕にすがりついた。
「アニース」
 愛おしげな声が呼ぶ。アニースもまっすぐ彼の瞳を見上げた。
「イサールさま……」
 視線が交差する。ふ、と彼の目から余裕が消えた。