経験豊富と呼ばないで! 出戻り処女な私は、年下童貞くんの甘いおねだりに逆らえない
葉月エリカ イラスト/池上紗京

「初めてはアデリナがいいんだ」
 聞き捨てることのできない真摯な口調だった。
「アデリナがまだ、ランブルグ伯爵を想ってるのも知ってる。彼に操を立てたいのもわかってる。だけど今だけ……一度だけでもいい」
 握られた手に、きゅっと力がこもった。
「本当に好きな人と、してみたい。俺が童貞を捧げたいのはアデリナだけだ」
「セディ……」
 飾り気のない告白に息が詰まり、抑えきれない未練が溢れた。
(本当は、私だって……――)
 キーファに死なれた以上、アデリナは一生再婚することはないと思っていた。家計を支えるのに精一杯で、恋人を持つ気にもなれなかった。
 つまりアデリナは、この先ずっと男性を知ることはないはずだった。処女のまま中年になり、老境を迎え、女に生まれた喜びを得られないまま、一人寂しく死んでいく。
(セディのことを忘れられないのは、絶対に苦しい。だけど、何もないまま人生を終えるのも、きっと……)
 どちらに転んでも苦しいのなら、いっそ――と心が揺れる。
 乱れる心の奥底では、クローディアへの対抗心も皆無ではなかった。
 セドリックの初めての女性になれるかもしれない。その一点においてだけ、自分は彼女よりも抜きん出ている。
「俺を見て、アデリナ」
 揺らぐ視線を捕まえるように、セドリックがアデリナの頬に手を添えた。
「好き。――ずっと大好きだよ」
 唇を啄むキスをされ、頑なに閉じようとしていた膝の力が思わず抜けた。
 それを受容だと解釈したのか、セドリックは腰をより密着させてきた。
「あっ……」
 ぬるつく花床に、亀頭がぶつかる。やみくもに突き立てられようとしたそれは、勢い余ってにゅるんと滑り、見当違いの方向へ跳ねあがった。
「あれ? ここだよね? ……なんで……くそ、入らない……」
 焦ったように顔を赤くし、何度も挿入を試みようとしては失敗する。
 彼が慣れていないせいもあるが、アデリナの蜜口が処女の硬さで閉じていることを、セドリックはわかっていない。
 こんなときなのに、アデリナの胸中には幼少時の思い出が蘇った。
(なんでも必死になるの、変わってないのね――……)
 子供の頃は、たった一歳の違いでもできることに大きな差がある。
 駆けっこや縄跳びやカードゲーム。セドリックはアデリナと同じことができないとべそをかき、歯を食いしばって何時間でも挑戦していた。
 そのときの表情と今のセドリックの様子が、ふいに重なって見えてしまう。
 見かねたアデリナに助言されたり、手を貸されて成功すると、
『やった! できたよ、アデリナ!』
 と得意満面に笑う顔まで思い出してしまって。
「……焦らないで」
 アデリナもいっぱいいっぱいだったが、ひとまずそう声をかけた。
「ゆっくりでいいから……そこ……」
 ――後先のことを考えるのは、もうやめた。
 弟のように愛し続けたかったのに、弟のままではいてくれなかったセドリック。
 互いに大人になって、どうしたわけかこんなふうに裸で向き合うことになって。
(セディが困ってる。なら、私は助けないと)
 アデリナを衝き動かしたのは、それだけのシンプルな理由だった。セドリックの雄茎に触れ、手探りで自分の入り口に導いていく。
「あ……もしかして、ここ?」
 先端の位置がぴたりと定まり、セドリックが顔をあげた。
 見たこともないほど緊張した面持ちで、慎重に腰を進めようとする。
「挿れる、ね……――んっ……あ……ぅ……!」
 重量感のあるものが、狭隘な蜜道をずずずっ――と割り裂いた。
 襞と襞の間をめりめりと引き剥がされるような痛みに、アデリナは声のない悲鳴をあげた。
(痛い、痛いっ……無理……こんなの大きすぎる……!)
 恥骨が軋み、涙が滲む。それでも唇を嚙みしめて、拒絶の言葉を必死に呑み込む。
 セドリックのほうも泣きそうな顔で、アデリナに夢中でしがみついていたから。
「嘘みたいだ――俺、ほんとにアデリナの中にいる」
 じりじりと自身を埋めきったセドリックは、感激に声を上擦らせ、「すごい、すごい」と繰り返した。
 アデリナも、痛みさえ別にすれば、本当にすごいことだという感慨に打たれていた。
 互いの一番大切な場所がみっちりと食み合い、ふたつの体がひとつに繋がっている。自分たちはやっぱり男と女だったのだ。
「中、ぬるぬるして……狭くて、めちゃくちゃ気持ちいい。こんなの、動いたらまたすぐに出ちゃうよ」
「なら、このままでいれば?」
 アデリナとしては挿入だけで苦しすぎ、この上動かれては壊れると思った。
 しかしセドリックは首を横に振り、何やら決然と言う。
「それじゃ、アデリナが気持ちよくないでしょ。俺、頑張るから。初めてだけど、アデリナにも感じてほしいから」
「そんな、気を遣わなくていい……ああぁっ……!」
 唐突に腰を引かれ、内臓ごと引きずり出されそうな衝撃に声があがった。
 あと少しで抜けるところまで後退した男根は、濡れた媚肉をぶちゅんっと叩き、また奥へと潜り込む。
「こんな感じ……? はぁ……腰、ぐずぐずになりそう……」
 射精感を堪えるように眉を寄せ、セドリックはずっちゅずっちゅと緩慢な往復を続けた。
 揺さぶられるたびに引き攣るような痛みが走るが、一生懸命なその様子を見ると、やめてという声も喉に詰まる。
(こうしてると、セディは気持ちいいの……?)
 好きな男が、自分の体の内で快感を得ている。
 その事実は、アデリナの心をじわりと高揚させた。少しずつ彼を受け入れる方向に意識が変わり、強張っていた蜜洞がそれにつれて綻んでくる。
「あっ……なんか今、奥に届いた」
 腰を穿ちながら、セドリックが目を瞠った。
「こりってした何かに当たって……これが子宮口ってやつ?」
「あ、んっ……! あぁあ、やぁっ――」
 張り出した雁首が深い場所をぐりぐりと抉り、奇妙なざわめきが走る。
「これくらい奥がいい? それとも、もっと浅いところ?」
 決して余裕があるわけではないだろうに、セドリックはアデリナの官能を掘り当てようと懸命だった。燃えるように熱いものが狭い場所をずくずくと行き来するのに、膣内が独りでにうねった。
「あぁんっ……!」
 臍の裏の窪みを突かれて、アデリナの喉から洩れたのは、まぎれもない嬌声だった。熱心に反応を窺うセドリックが、その響きを聞き逃すわけもない。
「ここ? ここだよね?」
 腰を摑まれ、見出されたばかりの弱点を重点的に打ちつけられた。これ以上なく膨張した若茎が、乳白色の愛液を飛び散らす勢いで、がむしゃらに蜜壺を攪拌する。
 急に強くなった快楽に、アデリナの背中は孤を描き、両手の指が敷布を掻き毟った。
「ひぁあ、ああっ……はぁんっ……!」
「アデリナも気持ちいい? だったら、嬉しい――」
 全力疾走でもしているように汗みずくになりながら、セドリックは笑った。
 淫らな行為の最中に似つかわしくない、少年めいた無邪気な笑みに、鳩尾のあたりが締めつけられた。
(初めてなのに……年下のくせに……)
 自身の快感よりも相手を優先しようとする彼の気持ちが、どうしようもなくいじらしい。
 アデリナは思わず腕を伸ばし、セドリックの頭を胸に抱いて、柔らかな金髪を掻き乱した。
「んっ……アデリナ、待って」
 乳房に顔を挟まれて、セドリックが慌てた声を出す。
「俺、あんま余裕ない、からっ……そんな、押しつけないで……ああ、もうっ……!」
 仕返しとばかりに、セドリックはアデリナの乳首に嚙みついた。
「やっ……!」
 尖ったままの乳頭をむぐむぐと食まれて、背筋が粟立つ。
 増幅した快感に連動して、セドリックを咥え込んだ場所がきゅうきゅうと収縮した。
「だから、駄目だって……そんな締めないで……そこ、緩めて……」
 アデリナの意思とは無関係に、喜悦に支配された秘処は、淫猥な動きでセドリックを絞りあげる。
「ん……アデリナ……俺、もう……っ」
 セドリックが切羽詰まった声を洩らし、顔を天井に向けた。
 表情はつらそうで呼吸も苦しそうなのに、腰だけは猛然と前後して、アデリナの最奥をばつばつと穿ち続けている。溢れた愛液はじゅぷじゅぷと泡立ち、肌と肌のぶつかる音が高く響いた。