魔法学園の極甘なつがい
けも耳カレシの野生な純情
あまおうべに イラスト/のどさわ

「はぁ……」
 何度目かわからないため息をつきながら、準備室のテーブルの上に、明日使う予定の実験器具を数えて並べていく。
 さらに、薬品棚に保管されている薬の瓶を取り出そうと棚に近づいた――その時である。
 ココットは、何やらグニャリとした感触に行く手を阻まれた。まるで目の前に空気の壁が存在するかのように、薬品棚に近づくことができない。
「……え?」
 驚いて一歩下がろうとしたものの――今度は、前方の空気に引っ張られる感覚があり、後ろに退くことができなくなった。
「な、なんなの……っ!?」
 その場に張り付いてしまった、としか説明のしようがない。そこには何もないというのに。
(何もない……?)
 ふと気づき、集中して魔法の気配を探る。……と、うっすらと――蜘蛛の巣のような形に張り巡らされた光の糸が見えてくる。ココットは小さく悲鳴を上げた。
 魔力の糸でできているため、実際には蜘蛛の巣ではない。しかし形状がどうにも不気味である。
「放して……っ」
 力いっぱい暴れれば少しは動くことができる。しかし暴れれば暴れるだけ、光の糸はますます絡みついてくる。
「く……っ、なんなの……?」
(何が起きているの……?)
 無我夢中でもがきながら必死に原因を探るも、まったく理解できなかった。誰かが魔法を仕掛けたのだろうか? でもこんなところに、誰が、何のために……!?
 自由を奪われ、状況もつかめず、じわじわと恐怖に包まれる。
 やがて幾重にも絡みついてきた魔法の糸にがんじがらめにされ、ココットはついに、虚空に浮いた状態で身動きが取れなくなってしまった。四肢を振りまわして暴れているうち、腰の位置くらいの高さまで、身体が持ち上がってしまったのだ。
「はぁっ……、はぁ……っ」
 全力でもがいたため、すっかり呼吸が上がってしまった。これからどうなってしまうのだろう?
「サウル先輩……」
 助けを求める相手は一人しか思いつかなかった。こんな不可思議な状況を何とかできるのは、ココットが知る限り彼しかいない。
「先輩――サウル先輩……!」
 みんなの生活圏である学園内では、ごく親しい者同士なら、離れたところにいる相手と魔法で会話をすることも可能だ。
 ココットの魔力では呼びかけるだけが精いっぱいだが、それでも魔法の発信を続けたところ、しばらくの後、サウルが転移魔法でその場に姿を現した。
 いつもの仏頂面で現れた彼は、虚空で四肢を広げられ、大の字になって固まっているココットを目にして、虚を衝かれたようだ。
「おまえ――」
 細い光の糸にがんじがらめにされたまま、ココットは首だけを動かして訴えた。
「たっ、助けてください! 先輩! 何が起きているのか、全然わからなくて……っ」
 と、彼は灰色の目をすがめてココットの周囲を見る。
「その光の糸は魔法具だ」
「魔法具……?」
「拘束する以外、大した力はない。痴漢を振り払う要領で魔法を構成すれば、おまえでも自力で逃げられる」
「それが……さっきから必死に頑張ってますけど、ビクともしなくて……っ」
 泣き言をいう雑用係を、彼は冷たく見上げてきた。
「だから何だ? 俺の言うことを信じないのか?」
「信じます! 信じてます……けど……」
 サウルの態度は、やはりどこか冷淡だった。昨夜の怒りを引きずっているようだ。
「それなら魔力を増幅させるか? そうすれば必ず自力で脱け出せる」
「え、ぞ、増幅って……」
 それはつまり今、この場でサウルと性行為――あるいは途中までとかいうやつを、するということだろうか? 
(何の心の準備もしてない、こんなどさくさまぎれな状況で?)
 場所は科学準備室。奇妙な蜘蛛の巣から逃げるために、自由を奪われた状態で初めてを体験するなど、いくら何でも――
「……結構です」
 気が付けばそう返していた。サウルがひどく不穏な声でつぶやく。
「へぇ」
「がんばれば、わたしでも魔法で逃げられるんですよね。信じます。先輩の言うこと――」
 ココットは深呼吸をして集中した。
 ヒントをもらったため、使うべき魔法はわかった。自分の周囲に、薄く鋭いカミソリのような風を起こすのだ。女子生徒が防犯のために学ぶ、比較的初級の魔法である。
「フン」
 自力での解決を試みる雑用係に鼻を鳴らし、サウルは手近にあった椅子を引いて、その前に座る。
 そのとたん、ココットの集中が思いきり解けてしまった。
「なっ何してるんですか!?」
「見物」
「見物って――」
(ちょ、待って、その角度……!)
 さんざん暴れた末に拘束されたせいで、今のココットはひどい体勢である。両腕も両脚も、光の糸にぐるぐるに絡め取られて引っ張られ、左右に大きく開いた状態。おまけにテーブルくらいの高さまで浮いているため、サウルが椅子に腰を下ろすと、大股を開いているスカートの中が完全に見えてしまうのである!
「見ないでください! あっち向いて……!」
 首をのばして懇願するも、サウルは椅子の背もたれの上に頬杖をつき、完全に傍観の構えである。
「おまえ、雑用係の分際で監督生に命令するつもりか?」
「だって……――あ……!」
 そのとき、予想外のことが起きた。
 両腕が左右に開かれたままの恰好で、上体を激しくよじったせいか、無理やり留めていたシャツのボタンが外れてしまったのだ。シャツの前が開き、下着に包まれた胸が半分ほど露わになる。
「うそー!? やだ、見ないでください……!」
 半泣きになったココットを見上げ、サウルが鼻を鳴らした。
「早く何とかしないと、悪い先輩に身体検査されるぞ」
 頬杖をついたまま、彼は低い位置からじっと、ココットのあられもない姿を眺めてくる。
(ちょっ、ちょっと待って……っ。なんでこんなことに……!)
 視線を感じてますます焦った。
 こうなったら彼のことは頭から追いやり、魔法を成功させるしかない。
 その一念でしばらく頑張ったものの、現実は厳しかった。十分後、ココットはついに魔力も体力も尽きてしまう。
「……はぁ……、はぁ……、ダメです。全然……っ」
 うめきながら、どうにもならない無念さにくちびるを嚙みしめた。
 するとサウルは腰を上げ、テーブルの上に置かれていた実験器具の中から試験管を取り上げると、虚空で大の字になったココットの前に立った。そしてガラスの試験管の先端を、息を切らしているココットの首筋から鎖骨にかけて、スッと滑らせる。
 火照った肌にガラスの冷たさを感じ、ココットは身を竦めた。
「……っ、……先輩……?」
「心配するな。俺はさわらない。こいつでイタズラするだけだ」
 ふたたび首筋をツツーっとガラスでなぞられ、上半身がぞわっと粟立った。
「ん……っ」
 そもそもココットは首筋が弱いのだ。サウルにふざけて舐められるたび、くすぐったさに大げさなほど身もだえてしまう。
 おまけに今は不思議な糸に動きを奪われているため、逃げることができない。弱点を知る試験管での刺激に、動けない上半身が悩ましくわなないた。さらにそれを続けられると、不可思議な熱が腰のあたりに溜まっていく。
「まっ、待って、先輩……っ」
 身じろぎをした拍子に、露わになった胸がぷるんっと揺れる。下着に包まれているとはいえ、半分以上も露出している白いふくらみを彼の目にさらす状況は、頭がくらくらするほど恥ずかしい。
 だが冷たいガラスは制止を気にする様子もなく、腋から胸のふくらみの際をたどり、下着に包まれた先端に向かっていった。ツツツ……と危ういほうへ動いた後、あえて先端部分は避け、その周囲をくるくるとなでてくる。くすぐったいような、もどかしいような、曖昧な刺激に息を詰める。
「……なに、してるんです、か……っ、ん……っ」
「もちろん感度の測定だ」
 たっぷりとした乳房は、まるで彼の劣情を誘うかのごとく、試験管がふれてくるたび、ゆさゆさといやらしく揺れてしまう。おまけに先端は、何をされたわけでもないのに薄い下着をぴんと押し上げていた。
「ちょっと擦っただけで硬くなった。要検査だな」
 薄笑いで言いながら、彼は固くしこった先端をガラスの先端で押しつぶしてくる。とたん、背筋にぞくんっと愉悦が走り、思わず声が漏れてしまった。
「ぁあ……っ」
 いじられているのは胸だというのに、なぜか腰までひくついてしまう。大げさな自分の反応が恥ずかしくてたまらない。
(それに――)
 ひどく反応してしまうのは、なぜだか試験管の刺激が、実際に彼の指で触れられる心地に似ているせいでもあった。
 それもそのはず。サウルは試験管を通して、自分の魔力をごく微量、ココットの中に注いできている。本来、直に触れなければ不可能であるはずのことを、彼は物を介してやってのけているのだ。
(先輩がすごいのは、とっくに知ってたけど……)
 そのせいで、目を閉じれば彼の指に胸をいじられているように感じてしまう。さらに他人の魔力を続けて身に受け入れているためか、試験管がたどった場所から、酒の酩酊にも似た奇妙な火照りが生まれてくる。
「はぁ……っ」
 熱い息をつくココットに、彼は一瞬だけ素に戻って声をかけてきた。
「集中しろ。俺の力に、自分の魔力を重ねるんだ」
 言われるまでもなく、彼の魔力に触発されてココットの身の内でも魔力がいつになく活性化してきている。ココットは言われるまま、彼の魔力に自分のそれを重ねてみた。――と、ふれるだけで、何やら心地よいような、心許ないような、淫靡な感覚を抱き、ややひるんでしまう。
 するとサウルは、手本とばかりに、ほんの少しふれた部分でココットの魔力を引っ張り出そうとした。
「……ん……っ」
 どこというわけでもないものの、身体の内側を舐められているかのごとく、ねっとりとしたなまめかしさを感じる。しかし、同時にじわじわと少しずつ、潜んでいた自分の魔力が引き出されてくるのがわかった。
「おまえには人並み以上の魔力がある。ただ、それを表に出すのがド下手なんだ。俺の魔力を目印にしてついてこい。そうすれば吸い上げて、引っ張り出してやる――」
 そうこうするうち、ココットの身体を探索していた試験管が、ついに下肢にたどり着く。ツツツ……と下着越しに割れ目をたどり、前方の、最も敏感なあたりをふにふにとつついてくる。とたん。
「……ぁっ、……ぁっ……!」