贖いの聖夜
~無垢な伯爵令嬢は修道士と愛を交わす~
しらせはる イラスト/氷堂れん

 イリヤがふうっとそこに息を吹きかけた。じぃんとして、甘く痺れる。つながったところがきゅっと締まったところに、なかにいる男性の熱が抜きさしされ、思いがけなく擦れたところが気持ちよくて、アーチェは自分で動きたくなった。腰を浮かせ、引くと、自分自身の意志でそこが男を咥えこんでいるさまが見える。開いた肉と、挿す肉棒。動きかたをちゃんと覚えておけば、だれが相手でもよくできそう……と思っていたら、イリヤがアーチェに合わせるように動きはじめ、気持ちのいいところがますます深く擦られて、喘ぎがとめられなくなる。
「あぁ、あっ! そこ、気持ちいい……気持ち、いぃ……ぁあん、ぁ、あぁん!」
「だれでもいいわけではないでしょう」
 まだわからない。けれど、イリヤが肉芽に添えた指の熱さが、じんわりと快楽に甘さを添えていって、
「イリヤさま、イリヤさま、キス……して、ください」
 互いの体でつなげられるところはすべて、つなげてしまいたくなる。抱いてくれる相手の肩を抱き寄せ、ねだると、イリヤは火照ったアーチェの唇に乾いた彼のそれを触れあわせ、優しく額を撫でながら、
「……です」
 小さくなにかを囁いた。あまりに小声で、聞きとれない。
「なぁに? もう一回……ぁ、言って……ぁ、あぁ、抜いちゃだめ……!」
 なかいっぱいに滲む露を搔きながら男性器が引き抜かれた。懇願の声は唇に呑みこまれたが、ここでやめられたくない。必死で腿を浮かせて追いかけると、抜けそうなぎりぎりのところで戻ってくる。火照りきり、膨れあがった内襞がすごい勢いで搔き分けられて、一つ一つが破裂しそうな悦びだ。奥をぐりっと抉られた。アーチェはのけ反って声を洩らす。
「ん、ぁあ、すごい……あぁ、また……抜かない、で……行かないで、え、ぁあん!」
 男性器の棹がゆっくりと大きく、アーチェに抜きさしされる。イリヤが入ってくるたび悦びが増していき、下腹が熱く、なにか洩れてしまいそうに痺れていた。アーチェは男の背に腕をまわし、汗で滑る手を背筋にそって這わせた。内腿で彼の腰を締めつけ、快楽のなかでもよりよいところを抉ってもらおうとする。求めるとイリヤはキスをくれて、体と同じように唇と舌もお互いに絡みあわせた。イリヤの動きがやがて一定の律動を刻みはじめる。アーチェも、その刻みごとに自分が高みに追い込まれていくのがわかって、
「ぁ、ぁ、あっ……あ! あぁっ……だめ、だめ、も……こんなのって、あるの……っ?」
「アーシュエリー…………アーシェ……ぁ、はぁ……きみ……」
「いいの、いいの、気持ちいいの、いいっ……! こんなになる、なんて、知らなかっ……ぁあん、なにか、来るの、来る、来ちゃぅ、あぁ、あ、あ―――――!」
 びくん、となかが跳ねた。内壁がイリヤの熱を揉みこむように、ぐにゃりぐにゃりと勝手に動きだす。ぐったりと重たくなっていく体のなか、まるでそこだけ蛇が躍っているように。イリヤのいまだ硬いものを感じつつも、アーチェは指一本動かせず脱力した。ひく、ひく、と結合部が引きつけを起こしている。
 イリヤが、身を屈めてそっとアーチェの乳首を口に含んだ。
「……ゃ……」
 もう表皮が麻痺してしまって、なにも感じない。イリヤの唇のなかで、痺れた乳首がころころと転がり、舌先で粒のかたちをなぞられる。
「……だめ、いたずら、しないで……」
「もっとしたい」
 わがままな子供のような囁きは、イリヤのものなのか。唇が、顔を背けたアーチェの首筋をたどっていき、耳の下にキスが触れた。乳首にしたように耳朶を舌でくすぐられる。
「アーシュエリー……ここに注いでも、いい?」
イリヤの手のひらがアーチェの下腹に広げておかれ、ゆっくりと撫でさすった。
(注ぐ……なにを?)
 ぬくみが染みてきて、感じきったところも緩みはじめる……と、イリヤがそっと腰を引き、静かに挿しいれた。くちゃり、と音が響く。
「ぁふ……」
 うねりのおさまった胎内が、また新たな快楽の予感に、ひくっと震えた。イリヤがまた引いて、また挿し入れると、達したときと同じだけの快感が蘇り、その上にさらに気持ちよさが積みあがっていくようで、
「こわい……ゃ、もう、できな……ぃ」
「大丈夫。僕を見て」
 うながされて目をあげると、青い目が吸いこまれそうなくらい近くにあった。イリヤの顔だちはきれいなままで、眼差しは優しく、信頼できる。見つめているとキスをされ、イリヤが囁いた。
「僕だよ、アーシェ……」
(……なんのこと?)
 アーチェが彼に見入っているあいだにも、ゆっくりした抜きさしは続き、快楽はいまや下腹部から胸や腿、手足の爪先まで広がっていった。イリヤの肌に爪をたてる、その指先に伝わる熱さえも心地よい。アーチェはイリヤの金髪に額をすり寄せた。彼から滲みだした汗がアーチェの顎を伝って滴る。二の腕と肩をイリヤの胸板に預けて、彼にもたれかかるように座ると、二人の結合部がこれ以上ないくらい深くなり、指で触れると、おへそのすぐ下までイリヤの先端が届いているのがわかった。
「こんなところにぃ……いるの……」
「そう。僕はいるよ」
「あっ……」
 イリヤがアーチェの乳房を横からすくいあげて、揺らした。胸への刺激に感じて、腰を反らせると、イリヤの硬い男性器がアーチェを内側から押しあげる。アーチェは下腹部に手をあて、肌越しにイリヤのものをさすった。すでに互いのぬくもりは一つに溶け合っていて、境目がないくらい彼がそこにいることが自然に感じられる。いまは、自分のなかの空虚が埋まっていた。温かい、と、心から思ったとき……どうしてなのか眦が熱くなった。
「どうして泣くの?」
 耳元に囁きが。気づくと頬を涙がこぼれ落ちていて、アーチェが手で拭いきれないぶんをイリヤがキスで吸う。
「わからな……ごめんなさい」
「謝らないで……アーシェ」
「ぁ、ぁあ……イリヤ、さ……どうして、アーシェって呼ぶの……?」
 アーシュエリーの愛称はアーチェだ。まわりはみんなそう呼ぶのに――かつて、一人だけアーシェと呼んだ男の子がいた。あの子はだれ?
 イリヤは問いに答えず、アーチェの口を唇で塞いだ。太腿を抱えあげ、性器を抉るようにまわして内壁をまんべんなく搔いていく。充血しきった胎内は、どこに触れられてもひどく熱いのに、全部をそうされては火がつきそうだ。ゆっくりと、円を描く動きに翻弄されて、じっとしていられなくなる。アーチェは修道士の肩や手をつかみ、爪をたてて、怖いほどの悦楽から逃げだそうと試みた。
「いやぁ、ぁ、ぁあ……だめぇ、もう、おかしくなる……ぅ」
「もうすぐだから、アーシェ。おかしくなっていいから、身を任せて」
「もう、だめぇ、もう……溶けちゃう、溶けちゃ……ぁあ、また、飛びそ……ぁ、イリヤ、様、イリヤさまぁ……!」
 もっと激しくしてもいいのに、イリヤはこめかみに汗を滲ませながら、ゆっくりと抑えた動きを続ける。先ほど爆発した上に、さらに積みあげていった熱さがそろそろ限界に達する予感がした。逃げたいのに逃げたくない。アーチェはイリヤの手を口元に引き寄せ、指を嚙む。ぐるん、ぐるんとなかを抉っていた棹が動きをとめ、ぴんと張るように震えた。アーチェが最後の達する刺激が欲しくて自ら腰を振ると、イリヤがうめき、応えるように深く深く、自らを限界まで突き入れて、
「ぁあ、アーシェ……!」
「ぁ、あぁぁぁあ! あ!」
 熱がこぼれだすような頂点を迎えたアーチェのなかに、こぼれだした熱を補うような液体が注がれていく。どく、どく、と震えているのはイリヤの男性器で、熱水を放出しているのも彼なのか。ごくん、ごくん、とアーチェのなかが喉のように痙攣して、注がれるものを一滴もこぼすまいと呑みこんでいく。一人で達したときとはまるで違う……満たされる、とはこういうことなのか。イリヤの腕が、アーチェの体に手をまわして支えていた。見つめてくるのは、青い、青い目だ。
(わたし、知っている……この色)
 あれはどこで見たのだったか。重なってくる唇を受けとめながら目を閉じたアーチェの耳に、かすかな声が届いたような気がした。