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お仕事は貴方あなたの花嫁

水島 忍 イラスト/春名ひなこ

キーワード: 西洋

父の死で天涯孤独になったフェリシティ。ルークという青年社長が無償で父の借金を返済してくれるが、フェリシティは働いて少しでも返そうとする。そんな彼女にルークはプロポーズしてきて…? 発売日:2014年7月3日 


 いつしか、ジュディは翻弄されるだけではなく、彼のキスに応えていた。
 舌が絡み合う。それと共に、身体に甘い痺れのようなものを感じていた。こんな感覚は初めてだった。背筋がゾクゾクしてくる。もっと触れ合って、彼とこのひと時を過ごしたい。それは自分でも驚くほど強烈な欲求だった。
 ルークはその敏感になっている背中を、そっと撫でてきた。ビクンと身体が揺れる。
 キスが更に深くなってくる。
 ああ、なんだか……。
 身体がおかしくなりそう。
 彼の手が背中から腰へと移動していく。まるで身体の形をなぞられているようだった。ジュディは気持ちよくて、背中を反らした。
 彼はジュディの動きに合わせて、背中を支えるようにキスをする。気がつくと、ジュディは彼の腕に抱き上げられていた。履いていたスリッパが両方とも床に落ちていく。
 いつの間に……?
 驚いたが、嬉しかった。彼の腕の中で、自分は大事なお姫様のように抱かれているのだから。
 彼はぶっきらぼうに囁いた。
「向こうの寝室に行こう」
 ジュディは嬉しくて頷いた。
 一人では眠りたくなかった。彼と一緒にいてこそ、初夜になる。これはきっと結婚式の大切な儀式だから、ジュディはできれば先延ばしにはしたくなかったのだ。
 ルークは扉を開けて、自分の大きなベッドに向かった。そして、腕の中のジュディをそっとそこに横たえる。
「少し待っていてくれ」
 彼はジュディの寝室に戻ると、ついたままのランプをこちらに持ってきて、ナイトテーブルの上に置いた。彼の顔がよく見える。ジュディはうっとりして、彼に手を伸ばした。彼に触れたくて仕方なかったからだ。
 だが、その前に、彼はジュディを抱き締めて、再びキスをしてくる。
 上から覆いかぶさるようにしてキスをされると、さっきとはまた違うキスのように思えてくる。キスするたびに、前のキスとは違うものになるが、それは何故なのだろう。
 実際に違うのか。それとも、そのように思えるだけなのか。
 ルークはどうだか判らないが、ジュディにとってはこんな経験は初めてだった。ただ、とにかく、彼とキスしたいし、それ以上のことだってしても構わなかった。
 つまり、初夜を二人で過ごしたいの……。
 ベッドに横たわり、彼の身体が押しつけられると、さっき抱き締められたときより、身体のすべてが感じられるような気がしてくる。
 でも、もっと感じたい。
 自分がこれほどまでに貪欲に何かを求めたことはなかった。具体的に何を求めているのか、自分でも判らないが、とにかく彼に抱き締められて、キスされて、それから、先のこともしたかった。
 最終的にどうなるのかは、マシューズ夫人から聞いた。けれども、その中間部分については、説明がはっきりせず、よく判らなかったのだ。
 それとも、中間部分なんてものは、ないのかしら。
 ジュディは彼の身体に触れた。自分とはかなり違う。ごつごつしているし、筋肉がついているし、硬いし、何より身体の大きさが違っていた。彼は長身だが、自分は背も低く、小柄だ。
 こんな二人は身体を重ねることなんて、できるのかしら。
 それでも、彼の身体に手を這わせて、その感触にうっとりした。この身体に抱き締められると、なんだかとても気持ちがいい。
 彼もまたジュディの身体に触れてきた。
 最初は髪、それから頬。首から肩にかけて、撫でられ、肩から腕へ移動していく。
 そして、胸にそっと触れられた。
 布越しではあるが、確かに彼の手の感触が伝わってくる。彼は乳房の形を確かめるように、掌で包み、ゆっくりと指で揉んだ。
 もちろん、こんなことをされるのは、生まれて初めてで、身体が熱くなってくる。ワインを飲んだときの熱さとは違う。身体の内部から熱くなっている感じがして、ジュディはそんな自分の変化に戸惑った。
 彼の唇が離れたかと思うと、今度は耳朶にキスをされる。頬にキスされるのとは、場所は近くても、まったく違う。彼は胸に触れたまま、そのまま首筋から鎖骨にかけて、唇を這わせていった。
 彼の唇が辿っていくところは、なんだかとても敏感になってしまっている。唇や頬、額以外にキスをされるなんて、ジュディは考えたこともなかった。だから、新鮮な驚きがあった。そして、よく判らないながらも、もっとしてほしいと思う。
 わたしは欲張りなのかしら……。
 何もかも初めての体験だが、ジュディは彼がしてくれることはすべて受け入れるつもりだった。だからこそ、こんなに素直に自分は反応しているのかもしれない。
 そう。彼になら……何をされてもいいの。
 ルークは顔を少し離して、ジュディの様子を窺うように顔を見てきた。彼の顔は真剣だった。微笑んだりしなくても、彼の顔は整っていて、とても素敵だ。ジュディはうっとりしてきて、ぼんやりと彼の目を見つめ返す。
 ジュディは思わず手を伸ばして、彼の頬に触れ、微笑んだ。一瞬、彼の目が見開かれ、口元が緩む。
 彼が微笑んでくれた……!
 単純だが、たったそれだけでジュディの気持ちは舞い上がった。
 彼はガウンの上から触れていた手を、ガウンの中へ差し込んだ。ナイトドレスの上から触れられ、ドキッとする。もっと彼の掌の熱さを感じることができて、胸の頂が何故か敏感になっていくのを感じた。
 彼はその頂を指で探り当て、優しく撫でてくる。
「あ……ん」
 思わず変な声が出てしまい、ジュディは恥ずかしくなった。
「感じるのか?」
「あ、あの……なんだか……変なの……」
「それが感じるということだ? 気持ちいいんだろう?」
 ジュディは頷いた。
 マシューズ夫人は、身体がこんなふうになるとは教えてくれなかった。ただ、夫のすることをじっと受け入れればいいだけだと教わった。裸にされたり、身体を触られたりするけれど、痛くても我慢すれば、妻の務めが果たせるのだと。
 ジュディは痛いのは嫌だが、最終的に彼と身体がひとつになるということが、気に入っていた。それが彼に抱かれることなのだと知ると、抱いてほしいと思った。
 彼の何もかもを知りたい。こうして身体で感じるところは、彼のほんの一部にしか過ぎないかもしれないが、これを知らなければ夫婦とは言えないような気がしていた。
 でも、こんなに気持ちよくなってしまうなんて……。
「なんだか……恥ずかしい」
「いや、恥ずかしがらなくてもいい。これは……自然なことだ」
「本当?」
「ああ、そうだ。こんなふうにされると……」
 彼は指先で乳首を撫で回していく。
「……身体が疼くんじゃないか?」
 ジュディは頷きながら、身体をくねらせた。
「あぁん……ぁ……」
 彼は小さくクスッと笑った。
「私は君が感じてくれると嬉しい」
「……そうなの?」
「だから、もっと感じていいんだ」