蜜愛契約
~いじっぱり令嬢と溺愛公爵~
白ヶ音雪 イラスト/八千代ハル
父の作った借金を肩代わりしてもらう契約で、幼馴染みの公爵・ロベルトと結婚することになったアデル。幼い頃、ロベルトにいじわるをされていたアデルは、きっとまた彼にからかわれているに違いないと思っていた。しかし、ロベルトは優しげな表情で愛を囁き、蕩かすような愛撫でアデルをくまなく満たしてくる。こんなはずじゃなかったのに――。次第にロベルトに惹かれる心を抑えられなくなるが、彼を信じてしまうのが怖くて……。 配信日:2017年6月30日
~いじっぱり令嬢と溺愛公爵~
白ヶ音雪 イラスト/八千代ハル
父の作った借金を肩代わりしてもらう契約で、幼馴染みの公爵・ロベルトと結婚することになったアデル。幼い頃、ロベルトにいじわるをされていたアデルは、きっとまた彼にからかわれているに違いないと思っていた。しかし、ロベルトは優しげな表情で愛を囁き、蕩かすような愛撫でアデルをくまなく満たしてくる。こんなはずじゃなかったのに――。次第にロベルトに惹かれる心を抑えられなくなるが、彼を信じてしまうのが怖くて……。 配信日:2017年6月30日
「恥ずかしがっているのかな? アデルは可愛いなぁ」
「か、からかわないでよ……! それに結婚前にそんなこと、ふ、ふしだらだわ」
頬に添えられた手を、アデルはやっとの思いで振り払った。動揺のあまり声は裏返り、みっともなく掠れている。
しかしロベルトは、そのことに頓着しなかった。
「大丈夫、君が慣れるまで最後まではしないから、安心して」
「そういう問題じゃなくて……!」
そもそも最後までだとか慣れるだとか、彼が何を言っているのかさっぱりわからない。
身体に触れて、口づけをして、抱き合って。それで全てではないのか。
「アデル」
なおも言いつのろうとしたアデルを、ロベルトのまっすぐな視線が貫く。
「君を、早く僕のものにしてしまいたいんだ。まずは身体だけでもいい、僕のものになって」
「あ……」
ロベルトの顔が、間近に迫る。
身を引く暇もなく、アデルは彼に腰を引き寄せられていた。
力強い腕がアデルを拘束し、彼の唇に口をそっと塞がれる。
ふわりと、鼻腔に香水が忍び入った。
「ふぅ……、ん、んん……」
柔らかく、温かい唇だった。
口内に彼の舌が入り込んできたことに驚き、目を見開くが、腰に回された彼の腕は、アデルが逃げることを許してはくれなかった。
巧みな舌使いでアデルを翻弄し、淫らな声を上げさせる。
「ん、は……、んぅ……」
腰のあたりに重たい痺れがまとわりつき、骨まで溶かされてしまいそうだ。
これが、口づけ。
生まれて初めての、唇同士の。
身体から力が抜け、抵抗する気力も同時にこぼれ落ちていく。
「アデル、気持ちいい?」
気持ちいいはずがない。
そんな抵抗の言葉は、彼の口の中へと呑み込まれてしまう。
「んん……っ」
「は……、君とこうしているなんて、夢みたいだ」
舌を吸われるたび、まるで蜂蜜の海に浸されたように、脳髄が痺れ、とろけてしまう。
がくがくと膝が笑い、崩れ落ちそうになるアデルをしっかりと支えたまま、ロベルトは幾度も角度を変えて口づけを施した。
こんなの、嫌なだけのはずなのに――。
それなのに、ロベルトの舌使いがあまりに巧みで、優しいせいだろうか。思わず流されてしまいそうになる。
そもそも、彼はアデルとこんなことをして平気なのだろうか。昔はあんなに、アデルを嫌いだと言っていたのに……。
そう考えているうちに、ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れていった。
「ぽうっとしてる。初心で可愛いね、アデル」
濡れたアデルの唇を親指で拭いながら、ロベルトがくすりと笑う。
アデルはハッとした。
いつの間にか抵抗することも忘れ、彼の口づけを受け入れてしまっていた自分に気づいた。
「な、何するの……。わたし、こんな……こんな不道徳なこと……」
「そんなにとろけた顔で、何を言っているの? もっとしてほしい、って顔してる」
「そんなはずないわ……っ」
思わず否定したアデルだったが、そうしている間にもロベルトはアデルを横抱きにする。
細身なのに、十八歳の少女を軽々と抱きかかえられるほどの力が彼にはあったらしい。
「ロ、ロベルト、離して……っ」
「じっとして。暴れると落ちるよ」
密着した状態で何とか抵抗すれば、耳元で囁かれる。何かぞくりと背筋を滑り落ちるものがあり、アデルは微かに身を震わせた。以前も彼に触れられた際に覚えたことのある、未知の感覚だった。
やがてロベルトはアデルを寝台の上に下ろす。
柔らかな敷布が背中を受け止める感触に、アデルは慌てて身を起こそうとした。それなのに、すぐに上からロベルトがのし掛かってきて、アデルの手首を敷布の上に押さえつける。
「だ、だめ……」
「華奢な手首……すぐに折れてしまいそうだ」
「折る……!?」
ロベルトの言葉に、アデルはさっと青ざめた。
ただでさえ突然の口づけに混乱しているのに、この上、腕を折るだなんて。ロベルトはそんなに自分を苛めたいのか。
すると彼はきょとんと目を見開き、くすくすと笑い始めた。
「大事な君の腕を、折るわけないよ。アデルは可愛いね」
「ば、馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんかしない。君のその純粋なところが、僕は昔から眩しくて、眩しくて堪らなかった――」
言葉通り眩しそうに目を細めて、ロベルトが囁く。
真っ直ぐに向けられた眼差しと言葉に、アデルは今、自分が何を言われているのか咄嗟には理解できない。
「意味がわからないわ、ロベルト。だって、あなたは……」
わたしを苛めていたじゃない。
そう口にするより早く、ロベルトが首筋に顔を埋めてくる。
血管をなぞるように舌でねっとりと舐め上げられ、先ほども感じたぞくぞくとした痺れが腹の底から這い上がってくる。
舐められた場所に軽く歯を突き立てられ、肌を食いちぎられるかもしれない恐怖に、アデルは身を竦ませた。
「ひゃ……っ」
「痛いことはしないから、心配しないで。ただ気持ち良くなるだけだから」
「んっ、いや、やだ……」
痛いことはしないという言葉に安心しつつも、未知の行為に対する恐怖が完全に消えるわけではない。
頭を横に振り、弱々しい抵抗をしたが、ロベルトはアデルを宥めるように、先ほど噛んだ場所を再び舌でなぞる。
生温かく濡れた舌で素肌を舐られる感触は、喩えようもなく生々しい。
「君の肌は甘いね、アデル。それに、とてもいい匂いがする」
「ぁ……、だめ、だめよ、ロベルト……」
すん、と顔のすぐ近くで鼻を鳴らされ、アデルはぎゅっと目を瞑って身を竦ませた。
彼の息づかいをこんなにも近くに感じられる状況が怖くて、恥ずかしくて、今すぐに逃げ出してしまいたい。
「ロ、ベルト……。もうやめて……」
「どうして? 君はもう僕の妻になることが決まったんだ、義務を果たしてもらわないと」
「で、でも、怖いし……恥ずかしい……」
自分を苛めていた相手にこんなことを言うのは屈辱だったが、それ以外にこの状況から抜け出す術をアデルは知らない。
目に涙を溜めてロベルトを見返すと、彼はアデルをじっと見つめたまま、こくんと喉を上下させた。
「その顔は逆効果だよ、アデル」
「逆効果って、何……」
「君が可愛すぎて、抑えが利かなくなりそうだ」
「か、からかわないでよ……! それに結婚前にそんなこと、ふ、ふしだらだわ」
頬に添えられた手を、アデルはやっとの思いで振り払った。動揺のあまり声は裏返り、みっともなく掠れている。
しかしロベルトは、そのことに頓着しなかった。
「大丈夫、君が慣れるまで最後まではしないから、安心して」
「そういう問題じゃなくて……!」
そもそも最後までだとか慣れるだとか、彼が何を言っているのかさっぱりわからない。
身体に触れて、口づけをして、抱き合って。それで全てではないのか。
「アデル」
なおも言いつのろうとしたアデルを、ロベルトのまっすぐな視線が貫く。
「君を、早く僕のものにしてしまいたいんだ。まずは身体だけでもいい、僕のものになって」
「あ……」
ロベルトの顔が、間近に迫る。
身を引く暇もなく、アデルは彼に腰を引き寄せられていた。
力強い腕がアデルを拘束し、彼の唇に口をそっと塞がれる。
ふわりと、鼻腔に香水が忍び入った。
「ふぅ……、ん、んん……」
柔らかく、温かい唇だった。
口内に彼の舌が入り込んできたことに驚き、目を見開くが、腰に回された彼の腕は、アデルが逃げることを許してはくれなかった。
巧みな舌使いでアデルを翻弄し、淫らな声を上げさせる。
「ん、は……、んぅ……」
腰のあたりに重たい痺れがまとわりつき、骨まで溶かされてしまいそうだ。
これが、口づけ。
生まれて初めての、唇同士の。
身体から力が抜け、抵抗する気力も同時にこぼれ落ちていく。
「アデル、気持ちいい?」
気持ちいいはずがない。
そんな抵抗の言葉は、彼の口の中へと呑み込まれてしまう。
「んん……っ」
「は……、君とこうしているなんて、夢みたいだ」
舌を吸われるたび、まるで蜂蜜の海に浸されたように、脳髄が痺れ、とろけてしまう。
がくがくと膝が笑い、崩れ落ちそうになるアデルをしっかりと支えたまま、ロベルトは幾度も角度を変えて口づけを施した。
こんなの、嫌なだけのはずなのに――。
それなのに、ロベルトの舌使いがあまりに巧みで、優しいせいだろうか。思わず流されてしまいそうになる。
そもそも、彼はアデルとこんなことをして平気なのだろうか。昔はあんなに、アデルを嫌いだと言っていたのに……。
そう考えているうちに、ちゅ、と小さな音を立てて唇が離れていった。
「ぽうっとしてる。初心で可愛いね、アデル」
濡れたアデルの唇を親指で拭いながら、ロベルトがくすりと笑う。
アデルはハッとした。
いつの間にか抵抗することも忘れ、彼の口づけを受け入れてしまっていた自分に気づいた。
「な、何するの……。わたし、こんな……こんな不道徳なこと……」
「そんなにとろけた顔で、何を言っているの? もっとしてほしい、って顔してる」
「そんなはずないわ……っ」
思わず否定したアデルだったが、そうしている間にもロベルトはアデルを横抱きにする。
細身なのに、十八歳の少女を軽々と抱きかかえられるほどの力が彼にはあったらしい。
「ロ、ロベルト、離して……っ」
「じっとして。暴れると落ちるよ」
密着した状態で何とか抵抗すれば、耳元で囁かれる。何かぞくりと背筋を滑り落ちるものがあり、アデルは微かに身を震わせた。以前も彼に触れられた際に覚えたことのある、未知の感覚だった。
やがてロベルトはアデルを寝台の上に下ろす。
柔らかな敷布が背中を受け止める感触に、アデルは慌てて身を起こそうとした。それなのに、すぐに上からロベルトがのし掛かってきて、アデルの手首を敷布の上に押さえつける。
「だ、だめ……」
「華奢な手首……すぐに折れてしまいそうだ」
「折る……!?」
ロベルトの言葉に、アデルはさっと青ざめた。
ただでさえ突然の口づけに混乱しているのに、この上、腕を折るだなんて。ロベルトはそんなに自分を苛めたいのか。
すると彼はきょとんと目を見開き、くすくすと笑い始めた。
「大事な君の腕を、折るわけないよ。アデルは可愛いね」
「ば、馬鹿にしてるの?」
「馬鹿になんかしない。君のその純粋なところが、僕は昔から眩しくて、眩しくて堪らなかった――」
言葉通り眩しそうに目を細めて、ロベルトが囁く。
真っ直ぐに向けられた眼差しと言葉に、アデルは今、自分が何を言われているのか咄嗟には理解できない。
「意味がわからないわ、ロベルト。だって、あなたは……」
わたしを苛めていたじゃない。
そう口にするより早く、ロベルトが首筋に顔を埋めてくる。
血管をなぞるように舌でねっとりと舐め上げられ、先ほども感じたぞくぞくとした痺れが腹の底から這い上がってくる。
舐められた場所に軽く歯を突き立てられ、肌を食いちぎられるかもしれない恐怖に、アデルは身を竦ませた。
「ひゃ……っ」
「痛いことはしないから、心配しないで。ただ気持ち良くなるだけだから」
「んっ、いや、やだ……」
痛いことはしないという言葉に安心しつつも、未知の行為に対する恐怖が完全に消えるわけではない。
頭を横に振り、弱々しい抵抗をしたが、ロベルトはアデルを宥めるように、先ほど噛んだ場所を再び舌でなぞる。
生温かく濡れた舌で素肌を舐られる感触は、喩えようもなく生々しい。
「君の肌は甘いね、アデル。それに、とてもいい匂いがする」
「ぁ……、だめ、だめよ、ロベルト……」
すん、と顔のすぐ近くで鼻を鳴らされ、アデルはぎゅっと目を瞑って身を竦ませた。
彼の息づかいをこんなにも近くに感じられる状況が怖くて、恥ずかしくて、今すぐに逃げ出してしまいたい。
「ロ、ベルト……。もうやめて……」
「どうして? 君はもう僕の妻になることが決まったんだ、義務を果たしてもらわないと」
「で、でも、怖いし……恥ずかしい……」
自分を苛めていた相手にこんなことを言うのは屈辱だったが、それ以外にこの状況から抜け出す術をアデルは知らない。
目に涙を溜めてロベルトを見返すと、彼はアデルをじっと見つめたまま、こくんと喉を上下させた。
「その顔は逆効果だよ、アデル」
「逆効果って、何……」
「君が可愛すぎて、抑えが利かなくなりそうだ」