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マリッジスイッチ
~はつ恋の食べごろ~
琴見れい イラスト/カキネ
アンリエットは幼なじみのセルジュと両想いで、同じく幼なじみのダニエルとフローリアも両想い。親には秘密で清らかな関係を続けている。四家が集まったある夜、セルジュの父から、アンリエットとダニエル、セルジュとフローリアの結婚を決めたと告げられる。貴族階級のセルジュやフローリアと違い、自分たちは新興富裕層。しかも親の命に背けるはずもない。アンリエットは恋を諦めようとするが、「僕を信じて」というセルジュに抱かれてしまい…? 配信日:2017年12月22日 


「セルジュ。お願いだから聞いて。こんなの、だめ」
「恥ずかしがらないで」
 羞恥はもちろんだが、それだけが拒絶する理由じゃない。セルジュにだってわかっているはずだ。
 あっさりシュミーズの前を開かれ、さらにきつく目を閉じる。素肌が外気にさらされ――自分が今、どんな姿をしているのか、考えるだけで卒倒してしまいそうだった。
「……なんて可愛いんだろう」
 いたたまれない。だけど、こんな格好で逃げだして見つかったら大騒ぎだ。そもそも、セルジュが逃がしてくれない。
 彼の手が肩からシュミーズを落とす。
「いつの間にか、君はすっかり大人になっていたんだね」
 身体を這うセルジュの視線を感じる。顔から火が出る思いだ。
「素敵だよ、とても」
「そんなこと……」
「早く食べてしまいたい」
「え?」
「なんでもない。さ、次は下だよ」
「下?」
 おずおず目を開けると、彼は唯一身体に残ったドロワーズを示した。
「だめ。それだけは」
「じゃあ、見ないから」
 強引に手を引かれ、ベッドへ連れていかれる。
「ここなら身体を覆う布があるだろう?」
 そう言ってベッドへ寝かされてしまう。あまつさえ、セルジュまで入ってきた。
「同じベッドに入るのは久しぶりだね」
 子供の頃、セルジュのベッドで四人一緒に眠ったことがある。ベッドの大きさも、淡いブルーグリーンの天蓋も変わらない。こうしてセルジュとふたり並んでいても余裕はあるが、さすがに今の四人で使うのは無理だろう。幼かったあの頃とは、もう違うのだ。
 などと、感慨に耽っている場合ではない。
 ドロワーズを脱がされかかっている。
「見えないから平気だろう?」
「そんなこと、ない」
「君を全身で感じたいんだ」
 セルジュに見つめられると、彼の望みを叶えたくなってしまう。
 これ以上流されてはいけない。彼はフローリアと結婚するのだし、自分はダニエルの妻になる身なのだから……。
 嵐のように荒れくるう心を必死に鎮めようと、アンリエットはくり返す。
「キスしようか?」
「しないわ」
 きっぱりと拒絶したところで、構わず唇が重なってくる。同時にドロワーズの紐がほどかれた。
「んんー…んふ、う……っ」
 唇をそっと食まれて開かされ、舌であわいを探られる。甘い陶酔に呑み込まれていく。
 ――もう、どうして……。
 ドロワーズがゆっくりと下げられ、セルジュと目が合う。
 だめだ、早く止めなければ。そう訴えるもうひとりの自分の声は、頼りなく消えていく。まるでセルジュの操り人形になってしまったみたいだ。もっとも、本当に人形ならば、これほど羞恥を覚えることも、罪悪感に苛まれることもないだろうが。
 アンリエットの脚から引き抜いたドロワーズを、彼は床に落とした。
「おいで、アンリエット」
「でも……」
 じり、と身体を引いたものの、結局抱きしめられてしまう。互いの肌がぴったりと密着する。初めての感覚に、胸がとどろいた。
 ――セルジュ……。
 すでに火照っていた身体がいっそう熱を帯びる。顔が近くて、吐息が触れそうで――呼吸に困ってしまう。
「気持ちいいよ、すごく」
 セルジュはうっとりと囁いた。耳元に彼の深い呼吸が触れる。
「君は?」
「…………」
 答えられないのは、アンリエットも心地よさを感じているから。
 いっそ嫌悪感を覚えられたらよかった。
 これではますます彼の腕から抜け出せなくなってしまう。その上、なおも懸命に突っぱねようとするたび、甘い口づけが与えられるのだ。
 なぜセルジュはなんの躊躇もなくこんなことができるのだろう。
 まさか結婚の話を忘れたわけではないだろうし……。
 しかし、深く考えている余裕はなかった。急にセルジュが体勢を変え、覆いかぶさってきた。裸の上半身を目の当たりにして、「あ」と声を上げてしまう。
 服を着ているときはわからなかったが、彫刻のようにたくましい。
「ずっと、こうしたかった」
 甘い声と眼差しに、自分だけではなく、セルジュもまたアンリエットの身体を見ているのだと気づかされる。裸の身体を――。
「そのときが来たら、どんな気持ちになるだろうって想像していたけど、どれも当たらなかったな。こんな感情は知らなかった」
 慈しむような瞳がこちらを見下ろしてくる。
「心から大事にしたくて……どうしようもなく奪いたい」
 その瞬間、彼の眼差しにぎらついた光が宿った。見たことのない、猛々しい瞳。
 あっと思う間もなく唇を貪られる。
「ぁんっ……ん…ふぁ…あっ…!」
 キスをしながら、彼は胸に触れてきた。もちろん抵抗したが、なんの意味もない。露になったそれを手のひらに包まれ、喉の奥で悲鳴がもれる。
 ――やめて、そんなこと。
 思っても言葉がつむげない。
 セルジュはアンリエットの口内をくまなく舐め回しながら、同時にやんわりと胸を揉みはじめる。
「張りがあって綺麗だと思ったけど、こうすると柔らかくて触り心地もいいね」
 そんなことを言われても困る。アンリエットは動揺と混乱でそれどころではない。しかも、拒絶の言葉を口にしようとするたび、それを察してか唇をふさがれてしまう。
「ううっ…ん、ぁふ……ん、んっ」
 息ができなくて苦しい。頭を振り乱せば、ようやく唇が解放された。しかし、依然として彼の手は乳房をまさぐっている。
「胸、放して……」
「気持ちよくない?」
「あっ……」
 今まで感じたことのない、むず痒いような感覚にとまどう。手のひらが胸の先へ押しつけられるとき、とくにそれは強くなった。
「……変だわ」
「感じているんじゃなくて?」
「わからな……あ、どうして……」
 胸の蕾をつままれ、腰が撥ねた。
「やっ……やだ、待って」
「気持ちがいいなら素直に感じたらいいんだよ」
 指で弾かれて捏ねられる。徐々に乳首が凝っていくのがわかった。はしたなくもぴんと尖っている。
「小さな実が熟したみたいだ。美味しそう」
 独りごちたセルジュは、乳首へ唇を寄せてきた。そして、信じられないことに本当にぱくりと食べてしまう。
「ああっ…セルジュ…やっ…あ、あ……っ」
 温かく濡れた口のなかで転がされると、悪寒にも似た痺れが背筋を駆け抜けた。
 ――なんなの、もう……。
 軽く歯を立ててみたり、ちゅっと吸ってみたり――そうされるたび湧きあがる未知の疼きを、なんとか振り払いたくて身をよじる。
「感度がいいみたいだね。それとも僕と相性がいいのかな?」
 セルジュは嬉しげに反対の蕾も指で弄りだす。
「ああんっ……も、あっ」
 片方は舌先でつつかれ、もう片方は少し痛いくらいの力で捏ね弾かれる。さらにたわわな乳房をこれみよがしに揉みしだかれ、身体はわななくばかりだ。
 止めないと。どんどんおかしくなる。
「やめて…ねえ、セルジュ」
「こんなに感じているのに、やめられるの?」
「だ、誰か、来たら……」
「鍵をかけているから、平気だよ」
 いつの間にそんなこと……。
「でも、やっぱり……あっん」
 こらえようとしているのにどうしても甲高い嬌声がこぼれてしまう。
「本当に、だめ。もう、やめて」
 涙を滲ませながら懇願すると、ようやく彼は手を止めた。
「どうして泣くの? アンリエット」
「だって、こんなこと、いけないわ」
「いけなくないよ」
 甘い笑みを向けられた刹那、アンリエットの眦を涙が伝い落ちた。
 セルジュが何を考えているのかわからない。もしや自棄になっているのだろうか? 結婚前に好き放題してやろう、と……。
「取り返しがつかなくなるわ」
「いいよ、それで」
 髪を撫でられる。大好きなセルジュの手。すべてを忘れ、この温もりだけを感じていられたら幸せなのに……。
「よくないわ。私たち、別々の相手と……結婚するのに……」
「そうはならないよ」
 彼はアンリエットの涙をぬぐうと、目元へ口づけてきた。
「僕を信じて、アンリエット」
「でも……ん……」
 唇にキスされると、しょっぱい――涙の味がした。だけど、不安を忘れさせるように何度も口づけされ、すぐに甘く塗り替えられる。
 ――だめなのに……。