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後宮淫夜
年下皇子による非凡な溺愛
あまおうべに イラスト/氷堂れん
小国の王女ファティマは、大国の後宮で人質として暮らしていた。そこで病弱な五つ年下の皇子ナミルと知り合い、世話係となる。三年が経ち、十七歳になったファティマは国王の妾妃となることに。準備を進める中、ファティマは歳をとらずに延々と眠り続ける奇病にかかってしまう。ある日、眠りから目覚めると、自分より年上の二十歳となったナミルがそこにいた。立派な貴公子に成長した彼にドキドキしてしまい、熱心な求婚を拒めずに抱かれてしまうが…? 配信日:2019年7月26日 


 横に並んで座り、見つめ合ううち、ふたりの間の温度に変化が生じていく。
 鼓動がドキドキと音を立て、次第に速まっていくのを感じた。
 とまどい、そっと目を伏せるファティマの頬を、ナミルは人差し指の背でなでてくる。
「頬が赤い。俺を意識しているのか?」
「……はい、たぶん」
 何しろ自分よりはるかに身体の大きな異性が――それも鋭い眼差しの精悍な武人が、すぐ近くにいるのだ。威圧感だけでもひるんでしまう。
 ひるむと言っても、恐ろしいのではない。焦がれるような熱い目でじっと見つめてくることへの、悩ましい困惑を誘う威圧感である。
 しかし――相手がナミルだからそう感じるのか、それとも単に異性を相手にしているからなのかは、自分でもわからなかった。
 ファティマの正直な返答に、ナミルは苦笑したようだ。
「たぶんか。――まぁいい。俺を見ろ」
 何気ない要求にファティマの鼓動が大きく跳ねた。
「…………っ」
 それができれば苦労はしない。
 ぬれた黒曜石のように美しい漆黒の瞳は、直視するには強すぎる。しかし。
「どうした? こっちを見ろ」
 重ねて乞われ、ファティマは渋々伏せていた目を上げた。
 そして予想通り、心臓がますます大きく波打つのを感じる。
 彼はいつも熱のこもった眼差しでこちらを見つめてくるから、目が合うと、ファティマはまるで茹でられたように顔が熱くなって、頭がぼぅっとしてしまうのだ。
 そんなファティマを見下ろして、彼は自分を抑えつけるように一度目をつぶり、そして困ったように笑う。
「……俺に言わせれば、その顔はもう恋に落ちている顔だぞ」
「そうでしょうか……?」
 小首をかしげる反応に、彼は嘆かわしげにため息をついた。
「年下になったおまえが、こんなに可愛いとは予想外だ。俺にとってファティマは、何もかもよく心得たしっかり者だったから……」
「わたしはごく普通の十七歳の娘です」
「そうだな。今になってそう気がついた。こんなにも無防備で、頼りない顔を目にして、何もできないなど拷問だ……!」
 ファティマにというよりも、それは彼自身に向けられた言葉のようだ。
 ナミルはこぶしを強くにぎりしめ、必死に何かに耐えている様子だった。
「あの……?」
 何かよくわからないけれど大丈夫かと、漠然とした問いを投げかけようとしたところで、彼は少しだけ身を乗り出してくる。
「キスをしてもいいか?」
 ふいの問いにファティマは恥ずかしさを堪えてうなずいた。
「……はい」
 キスなら、これまでに何度もされたことがある。頬、こめかみ、額、鼻筋、顎……。顔の中で彼に口づけられていない場所はないくらいだ。
 そう考えたファティマに、今日はもう少し先に進むのだと教えるように、ナミルは人差し指で首筋をさしてきた。
「ここと――」
 指先はさらに、胸のふくらみと、くちびるを指す。
「ここと、ここに、キスをしてもいいか?」
「……はい」
 そんなところにキスをされたらどうなるのか、想像もつかないが、うなずくしかない。
 まさに食べられようとしているウサギさながら、ファティマはただじっとナミルのすることに身をまかせた。
 大きな手が首にふれ、近づいてきた彼の顔がそこに埋められる。
「…………ぁ……っっ」
 首筋をくちびるでついばまれる感触は、ひどくくすぐったかった。
 あわてて両手で彼を押しのけようとするものの、大きな身体はびくともしない。それどころか、ファティマの煩悶に力を得たかのように、ちゅっ、ちゅっとくり返し口づけてくる。
 逃げようにも、首筋にふれる手がそれを阻む。
「ぁ、……ナミル様……ぁ、ひぅっ……!?」
 くちびるで辿られるだけでもくすぐったかった場所を、最後に舌でひと舐めされ、肩が跳ね上がった。
「首が感じやすいんだな」
 くすくすと低く笑いながら顔を上げた彼は、次にファティマの薄絹のシャツの裾に手をかける。
 その中に潜り込んでこようとした手をあわてて止めた。
「なっ、何をしているんですか……!?」
「胸にキスをしたいと言っただろう?」
 当然とばかりに返してくる彼に、大きく首を振る。
「服の上からかと思って……っ」
「直接はだめか?」
「いけません!」
「ならキスはあきらめよう」
 意外に素直な反応にホッとしたのもつかの間、
「さわるだけでいい」
 と、またしてもシャツをはだけようとしてくる。
「そ、それもいけません……!」
 ファティマは今にもシャツの裾に侵入してこようとする彼の手を、必死に押しとどめた。
 彼の手が自分の胸にそのままふれるなど、想像するだけで頭が沸騰しそうになる。
 にもかかわらず、彼は真顔で迫ってくるのだ。
「それなら……百歩譲って見るだけでいい」
「もういや……っ」
 ファティマは、両腕を突っ張って大きな身体を押しのけようとした。
 眠りから覚めたばかりの自分にとって、彼はまだ出会って三日しかたっていない相手だ。
 いくら深い縁があって、いずれ結ばれるかもしれない仲であるにしても、今ここで裸の胸を見せろだなんて!
(そんなこと求めてくるなんて信じられない!)
 無理難題ばかり言うナミルに、ファティマは半泣きで背を向けた。
「ナミル様は……成長されてから、いやらしくなってしまいました……っ」
 寝椅子の上で身体を丸めるファティマを、彼は心外そうに見下ろしてくる。
「俺は普通だ。大人の男はいやらしいものなのだ」
「いやらしいのが普通……?」
「そうとも。だがおまえに育てられた俺は、忍耐も持ち合わせている。だから今日はおまえの許す範囲で我慢しておこう」
「……本当に?」
「本当だ。だからこっちを向いてくれ」
 まだ少し警戒をにじませるファティマを寝椅子の上で仰向けにすると、ナミルはゆっくりと覆いかぶさってくる。
「ナミル様……っ」
「服の上から胸にキスをするのは、いいと言っただろう?」
 そう言うと、彼はファティマの上腕を顔の両脇まで持ち上げて座面に押さえつけ、無防備にさらされたふくらみに顔を近づけてきた。
 男らしい端整な顔が――形の良いくちびるが、薄絹のシャツ越しに胸の先端にキスをしてくる。
「……ん……」
 そこから生じた甘い衝動に身をよじろうにも、上腕を押さえられているため身動きが取れない。
 それをいいことに、ナミルは先端に口づけたまま、ふくらみのやわらかさを感じようとするかのように、顔を押しつけてきた。
 ぐいぐいと捏ねられた先端がきゅぅっと硬くなり、くちびるの感触を敏感に感じ取ろうとする。
「……ぁ、いやっ……」
 やわらかく温かいもので刺激され、そこがジン……と痺れるに至り、ファティマはいやいやをした。
「ナ、ナミル様……っ、もう、そのくらいに……」
 未知の感覚に動揺し、もぞもぞと動いた下肢が、その時、何やら硬いものにふれた。
 熱くて硬い――これは何だろう?
 下に目をやったファティマは、シャルワール越しに彼の股間が変なことになっていると気づき、目を瞠る。知識がなくとも、それが性的な反応であることは何となく想像がついた。
 自分の下肢がそれにふれていることに、ますます動揺してしまうファティマに、ナミルがため息交じりに言う。
「……見なかったことにしてくれ。こればかりはどうしようもないんだ」
「は、はい……っ」
 ドギマギとさまよわせた視線が、ふいに漆黒の眼差しと重なる。
 射止められたように動けなくなり、じっと見上げるファティマに、彼は表情を消して顔を近づけてくる。
「最後のひとつが残っている」
「…………っ」
 くちびるとくちびるが重なった。
 その、あまりに甘い衝撃に息を呑むと、ふるえる息を吸い込もうとするかのように、ふたたび重ねられてくる。
 今度は少し強く。そして次にまた少し強く。
「…………っっ」
 くり返しくちびるを重ねられ、はさむようにして食まれ、ファティマの息は次第に乱れていった。
 甘美な衝撃が、心の中に降り積もっていく。
 ついばむだけのキスからは、くるおしく求める彼の想いと、それを抑える気持ちとが、せめぎ合っているのが伝わってくる。
 やがてナミルは、ファティマの細い肢体をぎゅっと抱きしめ、せつなくかすれた声を耳元で響かせたのだった。
「ファティマ。早くおまえがほしい……!」