TOP>文庫一覧>ハレムの恋人たち幽囚の皇子に捧げる、小夜鳴鳥の艶めく恋唄
ハレムの恋人たち
幽囚の皇子に捧げる、小夜鳴鳥の艶めく恋唄
葉月エリカ イラスト/三浦ひらく
11歳の王女ナティアが奴隷市から助け出した少年ライザーク。ナティアの護衛として共に宮殿で暮らしていたが、帝国に攻め入られて離ればなれに…。月日がたち、帝国の後宮に千人もの妾の一人として囚われていたナティアはライザークと再会する。彼は皇太子の弟だったのだ。後宮の奥で想いを伝えあい、二人は結ばれる。だが皇太子の命令により、ライザークの処刑が決まり―!? 配信日:2020年3月27日 


「あっ、あっ、あぁあっ……いやああぁっ……」
 掻き回せば掻き回すほど、自分の指では届かない最奥が疼いてもどかしくなる。
 いつもここに入り込むのは、ライザークの指であり、猛々しい若茎だった。どちらも充分な長さと太さで、ナティアのいいところを存分に刺激してくれたのに。
「ああっ……だめ……自分じゃ、無理ぃ……っ」
 欲しくてたまらない快楽は得られないのだと悟った瞬間、ナティアは泣きそうになった。涙に潤んだ瞳に、おあつらえ向きの道具が映った。
 ジュダルが差し入れ、ライザークが残していった卑猥な玩具。
 絶対に使ったりするものかと、さっきまでは思っていたけれど。
(あれなら……――)
 唾を飲む喉がごくりと鳴った。
 ライザークの雄と比べればひと回りは小さいが、自分の指よりは断然使い勝手のよさそうな。
 ナティアはそろそろと性具に手を伸ばした。
 火照った掌に吸いつく、ひんやりとした感触。内側は空洞になっているのか意外と軽い。
表面はなめらかに研磨され、先端には本物の亀頭そっくりな出っ張りが掘り出されていた。直径はそれなりに大きく、根本にいくにつれて野太く広がっている。
 そんなものを手にしているだけで、心身ともにうずうずしてきた。
 ナティアは耳年増なだけで、ライザークと結ばれるまで実際の性体験は皆無だった。自慰そのものが初めてなのに、こんな道具まで使ってしまうことに、抵抗も後ろめたさもある。
 だが、それ以上に今は緊急事態なのだ。
 指を抜かれた膣孔は、一刻も早く代わりのものを欲しがって、涎を垂らしながらひくんひくんと収縮している。
(仕方ないのよ……)
 こうして弁解するのは何度目か。
 ナティアは固く目を閉じ、いやらしい形の性具を股間にあてがった。
 くちくちと何度か揺すり、前準備として嵩張った部分に蜜を纏わせる。その拍子に秘玉にも張型が擦れ、脳天までがじぃんと痺れた。
 深く息を吸って、一旦止めて。
 ゆっくりと吐き出すのと同時に、握った手に力を込めて、自ら膣道を押し開いた。
「あう――はっ……んぁああっ……!」
 ぐしょぐしょに濡れそぼった場所を、真っ黒な疑似男根がずぶずぶと遡っていく。
 熟れきったそこは、温度のない異物をこともなげにずっぽりと呑み込んだ。
「ぁあ、あ、やっ、ああっ」
 浅ましいと思う心を置き去りにして、ナティアの手はぐいぐいと大胆に動いた。
 もとが水牛の角であるため、張型は本物の男性器よりも湾曲している。そのせいで、思いもしない場所を唐突にごりっと抉られてしまう。
「うぅうっ……ぁあああ!」
 引き抜いては押し込め、また引き抜いては貫いて。
 ずぽずぽと出し入れするほどに、体の奥から震えるような快感が沸き上がってくる。
「やん……やっ……ぁぁうっ……はぁっ……」
 皇帝のお呼びがかからない妾たちが、こうして自慰に耽ったり、ときには女同士で張型を使い合ったりするという話を聞いたとき、ナティアは嫌悪感を覚えたはずだ。
 けれど、今は仕方がないと思ってしまう。
 気持ちのいいことは誰だって好きだ。
 人間の体は快感を得られるように作られている。逆に言えば、一度知った快楽を得られなければ、ひどく苦しい思いをする。
 そのために自分で自分を慰めることを、罪とまでは呼べないはずだ。
 ――それでも。
「んっ……ライザー、クぅ……っ」
 食いしばる唇の合間から洩れるのは、愛する男の名前だった。
 肉体的に達することは、ちっとも難しくない。媚薬で昂った体にこの張型さえあれば、何度だって絶頂を迎えられるだろう。
 けれど、心は。
 あのたくましい腕で抱きしめられたいと願う気持ちは、一人では決して満たされなくて。
「あっ、あっ、あっ、あ……」
 張型を持たないほうの手で、乳房をむぎゅっと摑み、突起をくりくりと弄り回す。
 ライザークがここにいれば、きっとこうしてくれる。奥を突かれながら乳首を苛められるのが好きなことを、彼にはとっくに知られてしまっているのだ。
(気持ちいい……いいけど、寂しい……)
 いつの間にかナティアの脚は大きく開かれ、虚空に向けて腰を突き上げていた。
 指よりは充溢感のある張型でも、ライザークの生身のものに比べると、どこか物足りなかった。ナティアの中はすっかり、彼の形に添うよう広げられてしまったのだ。
「もっと、奥……届かないの……いやぁ……」
 じゅんじゅんと切なく疼く部分に、張型の先端は擦れそうで擦れない。
 思い切り激しく出し入れしても、ライザークがいてくれないことを恨めしく思うばかりだ。自分で追い出しておきながら、都合のいい話だけれど。
「ああっ……ああっ、あんっ、あ、はぁあんっ……!」
 膣奥で達せないならばと、張型を限界まで差し入れたまま、親指で花芽を擦る。
 ぐにぐにと捏ねて、性感が高まりきったところでひときわ強く押し潰すと、意識はたちまち舞い上がった。
 その瞬間、思い浮かべていたのは、自分の中でびくびくと精を迸らせる恋人のことだった。
 ナティアの奥で一番気持ちよくなってくれたときの、眉間に皺を刻んだ、あの切なそうな顔――。
「ああああっ……ライザーク……っ……!」
 男の肉塊代わりの張型を、蜜襞がぎゅうぎゅうと切なく締めつける。
 呼応するような射精の痙攣は伝わらず、張型を引き抜いたナティアは、絨毯に突っ伏して啜り泣いた。
 二度の絶頂を迎えても、火照りはまだ鎮まらない。
 あと何度、こんなふうに虚しい行為を繰り返さなければならないのか――そう思って、悲しみに打ちひしがれたときだった。