偽装夫婦の熱演
京極れな イラスト/ワカツキ
マルクリー子爵家令嬢のレティシアは、父や兄が作った借財のせいで没落寸前の状況に頭を悩ませていた。そんなところに兄が持ち込んできたのは、名門貴族・ルブルトン公爵家の嫡男クロードとの縁談。二年前、クロードに弄ばれたことがあるので絶対に嫌だったが、よくよく話を聞けば、期間限定で離婚前提の偽装結婚だという。悩んだ末にレティシアは縁談を受けることにし、晴れて公爵夫人となる。しかし、周囲に仲睦まじい夫婦だと思わせるため、くちづけやそれ以上の触れ合いをすることになってしまい…? 配信日:2022年5月26日
京極れな イラスト/ワカツキ
マルクリー子爵家令嬢のレティシアは、父や兄が作った借財のせいで没落寸前の状況に頭を悩ませていた。そんなところに兄が持ち込んできたのは、名門貴族・ルブルトン公爵家の嫡男クロードとの縁談。二年前、クロードに弄ばれたことがあるので絶対に嫌だったが、よくよく話を聞けば、期間限定で離婚前提の偽装結婚だという。悩んだ末にレティシアは縁談を受けることにし、晴れて公爵夫人となる。しかし、周囲に仲睦まじい夫婦だと思わせるため、くちづけやそれ以上の触れ合いをすることになってしまい…? 配信日:2022年5月26日
(これが芝居……?)
だとしたら、本番はどれほどに甘美なのだろう。クロードが本当に愛しい女性にほどこす深いキスとは――。
アリアンヌのことが脳裏にちらついた。もうこの世にはいない相手なのに、どうしても気になってしまう。たぶんクロードにたくさん愛されていたから。
口づけに気を取られながらそんなことを考えていると、彼が胸元に手を這わせてきた。
(あ)
ネグリジェ越しに、乳房を掌で覆われてどきりとした。
くすぐったいような、せつないような、生まれてはじめの妙な感覚だった。
そのまま彼が遠慮なく愛撫をはじめるので、
「まって」
レティシアはとっさにクロードの手を押さえた。
「手を出すつもりはないと言ったわ」
そういう約束で偽装結婚したのだ。
ところが、信じられない言葉が返ってきた。
「あくまで予定を告げただけで、出さないと断言したわけじゃない」
「そんな……」
レティシアは耳を疑った。話が違うではないか。
畳みかけるように、クロードは続けた。
「実は今夜は、俺たちの仲を疑う女中頭に酒と夜食を持ってくるよう命じてあるんだ。親密なところを見せるためにね」
「そうなの……?」
新婚のふたりなら、夜はベッドで睦みあっているのがふつうだ。
「ああ。君も疑われてばかりでつらいだろう。仲のいいところを見せつけてやればまわりの態度も変わるはずだ。だから、彼らが来るまで我慢してほしい」
言い終えると、目を伏せて、ふたたび唇をかさねてくる。
レティシアに対するみなの態度が目にあまるから、クロードなりに策を練ったということだ。
(つまり、わたしのため……?)
無関心に見えて、実はいろいろ考えてくれているようだ。
かさなりあった唇の感覚も優しくて、レティシアはひとまずおとなしくクロードに身を委ねた。
口づけは、ただちに深くなった。ぬるりと舌を差し入れられ、口内を蹂躙される。この感触にはまだまだ慣れない。
「ふ……」
官能は一気に昂った。身体もすでに、これまでになく密着している。衣越しに彼の熱が感じられるほどに。
クロードとこんな行為に及んでいるのが信じられなかった。初夜から今まで、至近距離にいながらも、ただの一度も手を出してこなかったのに。
口づけをかわすたびに、どういうわけか彼との心の距離までが近くなるような錯覚を抱く。芝居とはいえ、まるで心を許しあっている恋人か夫婦のようだ。
「ん……」
クロードは、及び腰のレティシアを淫らな舌遣いで煽ってくる。もっと身を入れて応じろと言わんばかりに。
「ぅ……ん……」
(わたしたちは、理由があってこんなことをしているのよ。ただそれだけ……)
そう言い聞かせるものの、しだいにクロードのことしか考えられなくなってゆく。
「……ぅ……ン……」
濃密な口づけをくり返されているうちに、頭の芯がぼうっとしておかしくなってきた。抵抗する力もいつのまにか失われ、されるがままだ。あきらかに理性が薄らいでいる。
口づけはそのままに、彼の手がまた乳房に伸びてきた。
(あ……)
はじめのうちは、ネグリジェの上から愛撫しているだけだった。
弧を描くようにゆっくりとふくらみを揉みしだき、指の先でやんわりと頂をなぞられる。
男の手で乳房を愛撫されるなんて、もちろんはじめての経験だ。衣越しとはいえ、彼の熱が伝わってきて落ち着かない。
召使たちが来ないかどうか耳をそばだてながら、彼は気まぐれに口づけや愛撫をくりかえす。
しかしまだ人が来る気配はない。
いつのまにか硬くなった乳頭をさぐりあて、細やかに弾きだした。
「あ、あ……っ、ま、待って」
レティシアはふたたび彼を制した。
「今度はどうした?」
「召使たちに見せつけるなら、彼らがあらわれたときだけでいいじゃない……」
愛撫が思いのほか淫らになってきたので不安になった。
「それでは遅いな。どうせドアをノックする前から聞き耳をたてられてるんだから、期待にはおおいに応えてやらないと」
こともなげに言って、また唇をかさねてくる。
「ふ……」
遠慮なく舌まで挿入され、声を封じられてしまうと、抵抗するすべはなくなった。
(こんなの……だめなのに……)
兄との約束が脳裏をよぎった。必ず純潔のまま戻ってくると。そう約束したのに、このままでは――。
「あ……」
つかんだ乳房を淫らに捏ねまわされ、ついに溜息がこぼれてしまう。もっとそうしてほしいとねだっているかのような、淫らな溜息が。
クロードの気配も少し変わったようだった。
「脱がせるよ?」
彼がネグリジェの裾を捲りあげ、返事を待たずに手を差し入れてくる。いつもよりわずかに性急な感じが、レティシアを昂らせた。
「や……」
内腿にじかにふれられ、レティシアはびくんと身をすくめた。素肌は驚くほどに敏感になっていた。
彼の手が、腹部から乳房のほうへと滑り、ネグリジェを摺りあげる。
「あ……」
乳房のふくらみがあらわになり、レティシアは焦った。裸を見られてしまう。まだ男の人には見せたことがないのに。
「きれいな乳房なのに、どうして嫌がるんだ?」
恥じらってネグリジェを元に戻そうとするレティシアを咎める。
「恥ずかしいからに決まってるわ」
レティシアは横を向いた。羞恥のあまり、クロードの目を見られない。
「いいんだ。俺たちは、今は夫婦だよ?」
言いながら、飴色の明かりに染まった乳房のふくらみを素手で覆って揉みしだく。
「ん……」
男の大きな掌の感触が、じかに伝わってくる。その熱も。
彼の指先が、無防備になった乳頭にふれてきた。
「あ……っ」
レティシアはびくりと肩を震わせた。
「感じやすい体質だな」
顕著な反応に、クロードがくすりと笑った。
「あ、あっ、あ、や……」
そのまま指の腹で乳頭を転がされ、そこがいっそう硬くなるのがわかる。
「ん……、もう、やめて……、こんなこと……」
レティシアはかすれた声で訴える。いちいち反応してしまう自分の身体がはしたなくて、けれど、どうすることもできない。
「これからってときに、なに言ってるんだ」
クロードがくすりと笑い、つかんだ乳房の頂を口に含んだ。
「あん」
レティシアはびくりと肩をふるわせた。
熱い舌が乳頭にからみついてくすぐったい。それだけでなく、じりじりとした熱感も生じてみるみるそこがしこってゆく。
「ン……っ、あっ……、や……ン」
淫らに吸いたて、何度も刺激を与えられる。熱い舌で愛撫されるごとに、レティシアの身体はどんどんおかしな状態に陥ってゆく。
「あっ、ん……、ん……だめ……」
芝居にしてはやりすぎではないか。そうわかっているのに、巧みな愛撫や舌遣いに酔わされ、彼のペースに流されてしまう。まるで、身体中の感覚が彼に支配されているみたいに。
「遅いな……、だれも来ない」
つぶやきながら、ついにクロードが下肢のほうに手を向かわせる。
「あ……」
ドロワーズ越しにさらりと、どこかよくわからないところを刺激され、レティシアはびくんと下腹部を震わせた。
そこはほかよりもさらに敏感になっていて、ふれられると痺れるような甘い感覚が生じた。
クロードはそれを見抜いて、わざと淫らな指遣いでなぞりだす。
「あ……や……っ、だめ……、なにするの、クロード……」
レティシアはじっとしていられなくなって、脚を擦りあわせる。
「その声だよ、みんなが聞きたがってるのは」
にやにやしながら、彼が指先をドロワーズの綴じ目にすべり込ませてきた。
「ン……っ」
彼の指が、じかに秘所にふれた。
「こ、ここはやめて……、いくらなんでも……これ以上は……」
だとしたら、本番はどれほどに甘美なのだろう。クロードが本当に愛しい女性にほどこす深いキスとは――。
アリアンヌのことが脳裏にちらついた。もうこの世にはいない相手なのに、どうしても気になってしまう。たぶんクロードにたくさん愛されていたから。
口づけに気を取られながらそんなことを考えていると、彼が胸元に手を這わせてきた。
(あ)
ネグリジェ越しに、乳房を掌で覆われてどきりとした。
くすぐったいような、せつないような、生まれてはじめの妙な感覚だった。
そのまま彼が遠慮なく愛撫をはじめるので、
「まって」
レティシアはとっさにクロードの手を押さえた。
「手を出すつもりはないと言ったわ」
そういう約束で偽装結婚したのだ。
ところが、信じられない言葉が返ってきた。
「あくまで予定を告げただけで、出さないと断言したわけじゃない」
「そんな……」
レティシアは耳を疑った。話が違うではないか。
畳みかけるように、クロードは続けた。
「実は今夜は、俺たちの仲を疑う女中頭に酒と夜食を持ってくるよう命じてあるんだ。親密なところを見せるためにね」
「そうなの……?」
新婚のふたりなら、夜はベッドで睦みあっているのがふつうだ。
「ああ。君も疑われてばかりでつらいだろう。仲のいいところを見せつけてやればまわりの態度も変わるはずだ。だから、彼らが来るまで我慢してほしい」
言い終えると、目を伏せて、ふたたび唇をかさねてくる。
レティシアに対するみなの態度が目にあまるから、クロードなりに策を練ったということだ。
(つまり、わたしのため……?)
無関心に見えて、実はいろいろ考えてくれているようだ。
かさなりあった唇の感覚も優しくて、レティシアはひとまずおとなしくクロードに身を委ねた。
口づけは、ただちに深くなった。ぬるりと舌を差し入れられ、口内を蹂躙される。この感触にはまだまだ慣れない。
「ふ……」
官能は一気に昂った。身体もすでに、これまでになく密着している。衣越しに彼の熱が感じられるほどに。
クロードとこんな行為に及んでいるのが信じられなかった。初夜から今まで、至近距離にいながらも、ただの一度も手を出してこなかったのに。
口づけをかわすたびに、どういうわけか彼との心の距離までが近くなるような錯覚を抱く。芝居とはいえ、まるで心を許しあっている恋人か夫婦のようだ。
「ん……」
クロードは、及び腰のレティシアを淫らな舌遣いで煽ってくる。もっと身を入れて応じろと言わんばかりに。
「ぅ……ん……」
(わたしたちは、理由があってこんなことをしているのよ。ただそれだけ……)
そう言い聞かせるものの、しだいにクロードのことしか考えられなくなってゆく。
「……ぅ……ン……」
濃密な口づけをくり返されているうちに、頭の芯がぼうっとしておかしくなってきた。抵抗する力もいつのまにか失われ、されるがままだ。あきらかに理性が薄らいでいる。
口づけはそのままに、彼の手がまた乳房に伸びてきた。
(あ……)
はじめのうちは、ネグリジェの上から愛撫しているだけだった。
弧を描くようにゆっくりとふくらみを揉みしだき、指の先でやんわりと頂をなぞられる。
男の手で乳房を愛撫されるなんて、もちろんはじめての経験だ。衣越しとはいえ、彼の熱が伝わってきて落ち着かない。
召使たちが来ないかどうか耳をそばだてながら、彼は気まぐれに口づけや愛撫をくりかえす。
しかしまだ人が来る気配はない。
いつのまにか硬くなった乳頭をさぐりあて、細やかに弾きだした。
「あ、あ……っ、ま、待って」
レティシアはふたたび彼を制した。
「今度はどうした?」
「召使たちに見せつけるなら、彼らがあらわれたときだけでいいじゃない……」
愛撫が思いのほか淫らになってきたので不安になった。
「それでは遅いな。どうせドアをノックする前から聞き耳をたてられてるんだから、期待にはおおいに応えてやらないと」
こともなげに言って、また唇をかさねてくる。
「ふ……」
遠慮なく舌まで挿入され、声を封じられてしまうと、抵抗するすべはなくなった。
(こんなの……だめなのに……)
兄との約束が脳裏をよぎった。必ず純潔のまま戻ってくると。そう約束したのに、このままでは――。
「あ……」
つかんだ乳房を淫らに捏ねまわされ、ついに溜息がこぼれてしまう。もっとそうしてほしいとねだっているかのような、淫らな溜息が。
クロードの気配も少し変わったようだった。
「脱がせるよ?」
彼がネグリジェの裾を捲りあげ、返事を待たずに手を差し入れてくる。いつもよりわずかに性急な感じが、レティシアを昂らせた。
「や……」
内腿にじかにふれられ、レティシアはびくんと身をすくめた。素肌は驚くほどに敏感になっていた。
彼の手が、腹部から乳房のほうへと滑り、ネグリジェを摺りあげる。
「あ……」
乳房のふくらみがあらわになり、レティシアは焦った。裸を見られてしまう。まだ男の人には見せたことがないのに。
「きれいな乳房なのに、どうして嫌がるんだ?」
恥じらってネグリジェを元に戻そうとするレティシアを咎める。
「恥ずかしいからに決まってるわ」
レティシアは横を向いた。羞恥のあまり、クロードの目を見られない。
「いいんだ。俺たちは、今は夫婦だよ?」
言いながら、飴色の明かりに染まった乳房のふくらみを素手で覆って揉みしだく。
「ん……」
男の大きな掌の感触が、じかに伝わってくる。その熱も。
彼の指先が、無防備になった乳頭にふれてきた。
「あ……っ」
レティシアはびくりと肩を震わせた。
「感じやすい体質だな」
顕著な反応に、クロードがくすりと笑った。
「あ、あっ、あ、や……」
そのまま指の腹で乳頭を転がされ、そこがいっそう硬くなるのがわかる。
「ん……、もう、やめて……、こんなこと……」
レティシアはかすれた声で訴える。いちいち反応してしまう自分の身体がはしたなくて、けれど、どうすることもできない。
「これからってときに、なに言ってるんだ」
クロードがくすりと笑い、つかんだ乳房の頂を口に含んだ。
「あん」
レティシアはびくりと肩をふるわせた。
熱い舌が乳頭にからみついてくすぐったい。それだけでなく、じりじりとした熱感も生じてみるみるそこがしこってゆく。
「ン……っ、あっ……、や……ン」
淫らに吸いたて、何度も刺激を与えられる。熱い舌で愛撫されるごとに、レティシアの身体はどんどんおかしな状態に陥ってゆく。
「あっ、ん……、ん……だめ……」
芝居にしてはやりすぎではないか。そうわかっているのに、巧みな愛撫や舌遣いに酔わされ、彼のペースに流されてしまう。まるで、身体中の感覚が彼に支配されているみたいに。
「遅いな……、だれも来ない」
つぶやきながら、ついにクロードが下肢のほうに手を向かわせる。
「あ……」
ドロワーズ越しにさらりと、どこかよくわからないところを刺激され、レティシアはびくんと下腹部を震わせた。
そこはほかよりもさらに敏感になっていて、ふれられると痺れるような甘い感覚が生じた。
クロードはそれを見抜いて、わざと淫らな指遣いでなぞりだす。
「あ……や……っ、だめ……、なにするの、クロード……」
レティシアはじっとしていられなくなって、脚を擦りあわせる。
「その声だよ、みんなが聞きたがってるのは」
にやにやしながら、彼が指先をドロワーズの綴じ目にすべり込ませてきた。
「ン……っ」
彼の指が、じかに秘所にふれた。
「こ、ここはやめて……、いくらなんでも……これ以上は……」