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策士な女装王子は男装令嬢とのいちゃラブをご所望です

葉月エリカ イラスト/駒田ハチ

キーワード: 西洋 婚姻 初恋 甘々 王子様 男装

侯爵令嬢・カルラは、十三歳の頃に参加した仮装パーティの際、襲われかけたところを銀狼の仮面をかぶった少年に助けられる。以来、男性が苦手になるが、「怯えるより強くなりたい」と兄に剣術を教わり、今では変わり者の男装令嬢として有名になっている。そんなある日、病弱な王女・シルヴィアの見合いが決まり、特別に女性騎士としてカルラが護衛の指名を受ける。だが、王女は王子・シルヴィオだった! 見合いを相手から断らせるため、『女性同士』で恋に落ちたふりをするも「色気がない」と疑われ、シルヴィオとキス以上の触れ合いを試すことになり…? 配信日:2022年9月29日 


「ヒントはナサニエルがくれてるじゃない。彼が『ままごと』だって馬鹿にするなら、私たちの関係がキスどまりのものじゃないって証明すればいいのよ」
「しょ、証明って、そんな、どうやって」
「直に目撃しなくても、ナサニエルは匂いでわかると言ったんでしょう? だったら、存分に嗅いでもらおうじゃない。私とカルラの、混ざり合う色香を――」
「ひっ……!」
 しなだれかかってくるシルヴィオから逃れようと、カルラは長椅子の端まで追い詰められた。
「む、無理です。できません。押し倒すっていったって、その先のことなんて、どうすればいいいのか……」
 相手の動きを封じる体術ならお手の物だが、そういう意味での「押し倒す」ではないだろう。
 普通の男女の行為についてすら、カルラの知識はおぼろげなのだ。過去のトラウマゆえ、色事に関する話題からはなるべく距離を置いてきた。
 なのに女同士で――生物学上は男と女でも、見た目も役割も逆転した状態で――一体、ナニをどうすれば『ままごと』を脱せるというのか。
「やり方なんて決まってないわ」
 シルヴィオは優しく告げた。
「お互いにしたいことやされたいことを、自由にすればいいの。相手の反応をよく見て、気持ちよくさせてあげたいって思いさえあれば、失敗なんてそう起こらないわ」
「で、でも……でもですね……」
「カルラは私のことが怖い?」
 ふいにシルヴィオが悲しそうな顔をした。
「本当に嫌なら断って。いくら仕事だからって、こんなことまでは強制できない。私だって、こんな格好をしていても本当は男だし、内心では怖がられても仕方な――」
「怖くはないです!」
 カルラは思わず叫んでいた。
『シルヴィア』の正体を知ったとき、気持ち悪くないと告げたのと同じように。
「……嘘じゃなくて?」
 尋ねるシルヴィオの瞳は、なおも不安そうだった。
 いつでも泰然自若としている彼もこんな表情をすることが意外で、カルラは口走っていた。
「本当です。私はシルヴィオ様が好きです。――あっ、その、主従愛って意味ですけど!」
 自分の気持ちがはっきりしない以上、恋愛感情だとは言い切れない。
 急いで付け足すと、シルヴィオは複雑そうに微笑んだ。
「それでも嬉しいわ。私もカルラが大好きだから」
(この言葉もお芝居なの……?)
 嘘なのか本当なのか、考えすぎて頭がぐるぐるしてくる。
 もしも本当だとしたら、それはどういう意味なのかと推し量ることすら畏れ多くて。
「――もう何も考えないで」
 シルヴィオが手を伸ばし、カルラの髪を撫でつけた。
「あ、あの……ひゃっ!」
 仰け反った拍子に体勢が崩れ、カルラは長椅子に倒れ込んだ。
 そこに覆いかぶさったシルヴィオが、二度目のキスをする。
 初めてではないから落ち着いていられるはずだ――と思ったのも、ほんの束の間。
 唇を割って入るものの熱さと柔らかさに、天地がひっくり返ったような衝撃を受けた。
「んぅっ……!?」
 口の中で蠢いているのは、間違いない。シルヴィオの舌だ。
 驚くけれど、なされるがままなのは――自分でも意外なことに、嫌ではなかったから。
「ん、ぁ……ふっ……」
 口で呼吸ができない分、鼻から甘い息が洩れる。
 それを聞いたシルヴィオが、さらに口づけを深くした。
 カルラの舌をつついて、なぞって、上下に重ねてこすり合わせて。
 最初は遠慮の見えた動きが次第に大胆になり、上顎や歯の付け根を舐められて、項がぞくぞくした。
(これ、ままごとのキスじゃない……)
 それくらいはカルラにもわかる。
 キスをしながらシルヴィオは、カルラの耳を塞いだ。口の中でくちゅくちゅと鳴る水音が、頭蓋の内でいっそう大きく反響した。
(本当に……何も、考えられなくなりそう……)
 麻酔の注射を打たれたように、思考が痺れていく。
 すみずみまで口腔をまさぐった舌が、ちゅるっ……と糸を引いて離れた。
「カルラもそんなふうに色っぽい顔をするのね」
 そう言うシルヴィオの表情こそ、これまで目にした中で一番に艶めいてた。
「そんな目をされたら、もう……」
 上着の前を開かれ、シャツの上から胸に触れられた。
 さらしで押さえつけられた膨らみが、一気に熱を帯びる。輪郭を辿るように撫でられて、我知らず声が洩れた。
「ふぁ……ああ……」
「こんなふうにされて、怖くない?」
 尋ねるシルヴィオは、カルラの嫌がることは何ひとつしたくないと言わんばかりだった。
 その決意だけは信じられて、カルラは息を弾ませながら頷いた。
「っ……はい……でも……」
「でも?」
「ごめんなさい。本当は、私がシルヴィオ様を押し倒さなきゃいけないのに……っ」
 途端、シルヴィオが顔を横に向けて噴き出した。面白いことを言ったつもりはなかったから、カルラはきょとんとした。
「い、いいのよ……上下なんてどうでも」
 まだ肩を揺らして笑いながら、シルヴィオは言った。
「カルラがやり方を知らないのなら、今日は私にさせて。可愛いあなたを思い切り愛したいの」
「あ、愛するって……ひゃっ……!」
 シャツの裾をズボンから引き出され、大きくめくり上げられる。
 胸に巻いたさらしが露になって、シルヴィオが眉根を寄せた。
「いつもこんなものを着けてるの?」
「はい……押さえつけておかないと、動くのに邪魔になるので……」
 以前にも説明したが、あのときはシルヴィオを同性だと思っていたから話せたのだ。
 実際に見られると、無駄に豊かに育った胸が恥ずかしくて仕方がなかった。
「息苦しそうね。取っちゃいなさい、こんなもの」
「わっ、待って……!」
 抵抗虚しく、さらしの結び目をシルヴィオは呆気なく解いてしまう。圧迫が緩み、押し込められていた乳房が弾み出て、ぶるんっと存在を主張した。
 シルヴィオの瞳が一気にまん丸になる。
 彼の視線から庇うように、カルラは両腕で胸を抱え込んだ。
「見ないでください……こんな、下品でみっともなくて、恥ずかしい……っ」
 思えば十三歳のときから、この胸は発育を始めていた。
 カルラが襲われたのは、メイドだと間違われたことに加え、この巨乳が男の劣情を煽ったせいだったのかもしれない。
「――恥ずかしがらないで。みっともなくなんかないわ」
 嫌な思い出に目をつぶっていると、シルヴィオの優しい声がした。
「普段は窮屈な思いをしてる分、たっぷり可愛がらせて」
 シルヴィオの手が膨らみに触れて、カルラは息を詰めた。
 やわやわと指の沈む動きに、きゅうっと刺すような甘い刺激を感じた。
「ぁ……ああっ……」
 反対の膨らみにも触れられ、左右同時に揺らされると、経験したことのない疼きが体の内側で育っていく。
「どこから触っても柔らかい……」
 乳房の形を変えるように揉みしだきながら、シルヴィオはカルラの反応を窺っていた。
 同時にカルラも、波打つ乳房と、それを揺らす両手から目が離せなくなる。
 こうして見ると、やはりシルヴィオの手は、女性のものというには大きい。
 指が長くて、爪の形も綺麗だから誤魔化されてしまうが、男性に胸を揉まれているのだと思うと逃げ出したくなってくる。
 けれどそれは、シルヴィオが怖いからではなくて。
 かつて同じことをされたときは、おぞましい一心だったのに、今はそうではないことが――気持ちいいと感じ始めていることが、恥ずかしくてたまらないからだ。
 当惑に瞳を潤ませるカルラを見下ろし、シルヴィオはひとつ駒を進めた。
「ここ、こんなふうにするのはどう?」
「っ、ぁああん……!」
 頂を軽く摘まれて、声が裏返った。
 敏感な場所への刺激に、性感が一気に跳ね上がる。ふたつの乳首をすりすりと撫で回されて、肌が汗ばんでいく。
「はぁっ……ああぁ……」
「ここ、硬くなってきた……色も綺麗で、美味しそう……」
 ごく、と喉が鳴る音を聞いた気がした。
 シルヴィオの欲情を感じても、やはりカルラは彼を拒むことができなかった。
 体格的にはそこまでの差もないのだし、訓練を受けたカルラにとって、この姿勢からでも相手を跳ね飛ばすのは決して難しいことではないのに。
「んっ……ぅ、ああ、あ……!」
 親指の腹でくにくにと擦られる先端に、明確な快感が集っていく。必死で口を塞いでも、指の隙間から嬌声が洩れてしまう。
 シルヴィオがかすれた息を吐き、思い余ったように片側の乳首に吸いついた。
「あぁああ……っ!」