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悪役令嬢はハイスペ隠しキャラの蜜愛に惑う 2

依田ザクロ イラスト/塩瀬 透
不慮の事故で亡くなったのち、お気に入りゲームの悪役令嬢・ハニーフローラとして転生した葉菜。婚約者であり、ゲームのメインヒーロー・アーシー王子から無実の罪で告発されるも、サブキャラの隣国の皇太子・シトラスに庇われる。アーシーとの婚約は破棄になったが、冤罪を証明する過程でハニーは熱心に口説いてくるシトラスと結ばれ、今では両親公認で結婚前提のおつきあいをしている。日々溺愛され、身も心も満たされるハニーだが、元婚約者のアーシーが「謝罪したい」と手紙を送ってきて…? 配信日:2023年7月27日 


「口を開けてください」
(……っ、ちょっと恥ずかしいけれど)
 餌をねだる雛鳥よろしく唇を開く。
 彼は赤いキャンディを摘まんだかと思えば、なぜか自分の口へ放り込んだ。
「えっ」
 意表をつかれて声を上げたところへ、ずいっと顔を寄せてくる。
「そのまま」
 色めいたかすれ声と共に後頭部を押さえられる。身じろぎをする隙もなく、柔らかな唇が重なった。湿った舌が口内へ侵入してくる。
「……んぅっ」
 驚きに縮こまった舌の上へ、ころんと丸いものがのせられた。鼻孔を甘酸っぱい香りが駆け抜ける。
(これ、キャンディ……!?)
 口中に含んだキャンディを彼は肉厚の舌で押し込んできたのだった。
 とんだ食べさせ方だ。
 しかも、舌は役目を終えても引き下がらない。先端を尖らせ、キャンディをころころとその場で転がしてくる。
「んっ、ぅう……っ、んぅ……!」
 狭い口の中で、舌は傍若無人に動いた。ただでさえあたたかい口内に、絡み合う二枚の舌のあいだでさらなる淫熱が生まれ、キャンディがとろける。甘い汁がどんどんこぼれ、彼はハニーフローラの舌ごとそれをちゅくちゅくと舐めしゃぶった。
「ふ……、ぅぅんっ、ん……っ」
 舌が動くたび蜜と唾液があふれ、淫らな音が馬車内を満たす。唇と同時に耳まで犯されているようで、ひどく羞恥心が煽られた。
(甘い……すごく甘くて、甘い……)
 絶え間ない口淫に、酸欠も加わって頭の奥が白く痺れてくる。そのあいだも彼の舌はキャンディごと舌を擦り、絡めて、吸ってくる。
 思考だけではなく、身体も徐々に熱くとろけてきた。小さくなったキャンディは、身体の隅々まで赤く染め、甘くむしばんでいく。弄ばれているのは口の中なのに、下肢のあらぬところが疼いた。官能に腰が浮いてしまう。
「……は、ぁ……、んふぁ……っ」
 ひときわ強く舌を吸ってから、ようやく彼の舌は遠ざかる。
 解放された唇はふっくらと腫れ、舌もじんじん痺れている。昂った息づかいがなかなか収まらず、だらしなく唇を開いて肩を上下させた。――と、口に含んでいたキャンディの欠片がぽろりと転がり落ちる。
「きゃっ」
 ぬめりを帯びたそれは鎖骨をたどり、からかうように肌をなぞって胸もとへ落ちた。
「……っぁ! いや……っ」
 なんと、コルセットを絞って盛り上げた乳房のふくらみのあいだへはまってしまった。信じられない醜態に、かあっと頭に血が上る。
 雪のごとく白い双丘のふもとに埋もれたキャンディは、そこで甘く淫らな香りを放っている。
「かわいい。耳まで真っ赤に染めて。パーティーでそんな顔をしたらだめですよ。どんな男だってあなたの魅力に抗えず、吸い寄せられてしまう。こんなふうに」
 シトラスは赤い舌をひらめかせ近づいてきた。鎖骨をぺろりと舐められ、官能の痺れが背筋を走る。下肢まで羞恥で小刻みに震えた。
 彼はそのままキャンディが転がった道筋を舌先でなぞり肌を下りていく。やがて敏感な谷間へ到達するや否や、尖らせた先端をそこへ突き挿れてきた。
「ん……ぁっ、だめっ!」
 弾力のあるふくらみはキャンディを支えきれず、もっと奥へ落ちてしまう。
「ぁぁぁ……、ぃや……」
 キャンディを挟んだままパーティーになんて行けない。あまりの恥ずかしさで眩暈がした。
「大丈夫です。ちゃんと取ってあげますから、じっとして」
 いつもは頼りになる声が、今日はやけに意地悪に聞こえる。
 彼は官能的な唇から舌先をちろりと出して、上目づかいにこちらを見ている。
 この世の穢れなど無縁だとばかりの眉目秀麗な容貌の中、オッドアイの瞳だけが野生の本能をちらつかせていた。そのアンバランスさがまた魅惑的で、ハニーフローラの胸は鼓動を速める。
(本当に取ってくれるの……?)
 半信半疑ながら、彼にすがるしかない。
「お願い、します……」
 弱々しく懇願すれば、彼はしたり顔でうなずいた。
「お任せください」
 胸もとでささやかれると、熱い吐息が乳房を悩ましくくすぐる。
 ときめいたり身体を淫らに疼かせたりしている場合ではないのに、下腹部が変なふうに痺れてしまう。
 再び燃える舌が差し込まれた。深海の宝を探るように谷間をぬるぬると往復する。溶けたキャンディでべたついていた肌は、なめらかな舌に舐め取られてつるつると輝いた。直視に耐えられず、顔を背けるものの、あとからあとから生まれる奇妙な陶酔からは逃れられない。
「んっ、ぁ、ぁあ……っ、あ、あっ、ぁ……」
 愉悦を耐えて唇を引き結ぼうとしても、彼の舌が淫靡に動くたび嬌声が漏れてしまう。よりいっそう羞恥がつのった。
「あっあの……、まだ、ですか……?」
「もう少しですよ」
 いたずらめかして右目をつむってくる。嘘か本当かわからないが、まだ淫戯は終わらないらしい。
 そのとき、彼の左手が意味ありげにハニーフローラの細腰を撫でた。
「や、ぁっ……」
 びくびくっと背を反らす。
 硬いコルセットで締め上げられており刺激は直截的ではなかった。けれども、場所が場所だけに我慢ができない。身体の芯がどうしようもなく火照った。
「は、早く……取って……ぁっ……」
 胸を突き出し懇願する姿は、傍から見たらひどく淫乱だろう。
「脱がせていいのなら、すぐに取れるのですが」
「待、っ……、だ、め……」
 このドレスはフゼアが気合いを入れて着せてくれたのだ。それに、一度コルセットの紐をほどいてしまったら自分だけでは着直せない。
「わかりました。では上からこうしてさすってみましょう」
 彼は両手で腹部から胸の頂点までをすくい上げるふうに撫でてきた。ぼんやりとした刺激がやけにもどかしい。内側で柔肉がもじもじと揺れた。
「あ……ぅぁ……、んん……っ」
「苦しそうですね。大丈夫ですか?」
 体形が出るドレスを着るために常よりコルセットをきつくしている自覚はある。けれども、苦しさの原因はそこではない。
 直にふれてもらえない乳房の蕾が陶酔に膨れ、硬い革製のコルセットに開花を阻まれているせいだ。
「ぁ……ぁ……、痛いの……っ、擦れて……」
「痛い? それはたいへんです」
「あ、違……っ、痛いより、もっと、なにか、変な……」
 乳首のぴりぴりする痺れは、痛いのか気持ちいいのかの瀬戸際で揺れている。
 おまけに、下肢のあらぬところまで一緒に疼いて、とろりと蜜がこぼれた。
(やだ……、わたし、こんな反応っ)
 脚のつけ根が気持ち悪くて、大腿をすり合わせる。
 羞恥に打ちひしがれるハニーフローラを見て、シトラスは口角を吊り上げた。凄絶な美貌がさらに冴える。
「痛いのはかわいそうだ。身体を鎮めてあげるほうが先かもしれませんね?」
 彼は再びピルケースを取り出した。中からキャンディを取り出し、自らの唇に咥える。
(え……、自分で食べるの? それともまたわたしにくれるの?)
 話の流れが摑めない。
 一瞬、気が抜けてしまった。
 そこへ、伸びてきた彼の手がドレスの裾をまくし上げ、侵入してくる。普段のドレスアップ時ならば針金のクリノリンをつけているから手が阻めたはずだが、今日は腰にバッスルをつけたスタイルであり、前身頃は無防備だった。
「……っぁ」
 やや強引に膝を割られ、わずかに開いたドロワーズの隙間から武骨な手が差し込まれてきた。ドレスの中で手探りなのに、彼の人差し指は一番敏感な核を迷いなく探り当てる。
「きゃぁぁ……っん!」
 強い刺激に身がよじれた。明確な淫悦が迸る。
 下腹部で芽吹いていたものがようやく花開いた気がした。
 きっと自分が求めていたのはこれだ。でも、素直に認めるのはひどく卑猥でたまらない。身体はさらなる期待を待っているが、理性では認められず唇を嚙みしめた。