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落城の美姫
~堅物皇子の過保護な溺愛~
依田ザクロ イラスト/風コトハ
叔父の策略により、兄と大国・塘へ亡命してきたペルシエフの姫・セレス。国を取り戻すべく塘と手を組みたい兄のため、皇帝を籠絡しようと、後宮へ潜入することに。しかし、聡明と評判高い皇子・景聖に見つかり、淫らな尋問を受けてしまう。誤解とすれ違いを経たのちにふたりは結ばれ、兄も塘の援軍を受けて戦い、セレスは皇太子妃となる。身も心も景聖から溺愛され、幸せな日々を送るセレスだが、街で「落城の美姫」と呼ばれていることを知り…? 配信日:2026年7月30日 


「お前はいったいどこへ行こうとしていた?」
 皇太子・柴景聖のまなざしが、獲物を狙い定めた猛禽のように鋭くセレスを貫いてくる。
「どこへって……」
 追及の険しさに圧倒されて言葉をうまく継げないでいれば、彼は眉間の皺を深くした。瞳には苦い色が浮かぶ。
「まさか、逃げようと?」
「……え?」
「俺から。閉ざされた後宮暮らしが嫌になって」
「ち、違……、んっ」
 否定しかけた言葉は、覆いかぶさってきた彼の唇へ吸い込まれた。有無を言わさず押し入ってくる強靭な舌に、セレスの小さな舌は簡単に絡め取られる。
「……ぁ、ん……、っ……」
「逃がすものか」
 あえかな息継ぎすら許さないとばかり、口づけは深くなる。
「お願い、話……聞いて……っ」
 なんとか息継ぎの合間に言葉を紡ごうと試みるものの、嚙みつくような口づけに邪魔をされた。
「お前は俺のものだ。言い訳など聞きたくない」
「んぅ……っ」
 無理やり貪られているというのに、甘い燻りが体内に芽生えた。蜜が染み渡るように全身へ広がっていく。
 生肌にまとわりつく湯けむりの重さと熱さ、唇が擦れ合うたび生まれる陶酔、そしてねっとりとした舌づかいの執拗さに翻弄されて、頭がぼうっとしてしまう。弁明をしなくてはいけないのに。
 そのあいだにも景聖の手は器用に動き、セレスの金色の髪を結い上げていた真紅の飾り紐をほどいた。それは、つい先ほど入浴前に彼から贈られたばかりの品だった。親指ほどの太さをし、絹独特の柔らかさとしなやかさを持つ長い紐なのだが、彼はあろうことかそれをセレスの手首へ巻いてくる。
「なっ……!?」
 とんでもない行為に仰天し、瞳を大きく見開いた。
 両腕を背中へ回して拘束され、さらには余った紐が腹へ回されてくる。胸のふくらみを交差する形で上へ、まるで下着の紐を結ぶみたいに首の後ろで結ばれた。
「や、なにこれ……っ」
「……美しい。赤はお前の髪に似合うと思って手に入れたが、白い肌こそよりいっそう際立たせるのだな」
 うっとりとしたまなざしがセレスの肢体へ注がれる。上体は赤い紐でくくられ、みずみずしい乳房が縊り出されている。いつも以上に柔肉の大きさが強調され、信じられない痴態だ。セレスはちらっと眼下へ目をやって、めまいに襲われた。
「いやぁっ、これ……!」
「どうする? この格好で外へ逃げるか? ……できないだろうな」
 大きな手のひらが、紐の食い込む心臓の辺りへ添えられた。責める口調で高圧的な態度なのに、その手つきはひどく優しい。羞恥と一緒に腹の奥から官能を求める欲求が湧き上がってきて、そんな淫らな自分の反応に困惑した。
「やめて……」
「やめない」
 景聖はぷるんと突き出す双丘を手のひらで覆い、やわやわと押し回してくる。奥に秘められた淫悦を呼び起こす仕草に、身体の芯が熱を持っていく。中央の尖りが硬い皮膚にくりくりと扱かれて、淫靡に勃ち上がった。
「ぁ……、ん、ん……」
「もどかしそうだな」
 胸に顔を寄せてきた彼は、赤い舌先をふくらみへ這わせてきた。側面から押し上げるように舐められると、湯気に包まれてしっとりと潤んだ柔肉がもぎたての果実のように弾んだ。
「は、ぁ……、だめ、……」
 片方の乳房をじれったくこね回しながら、もう片方の敏感な突起を避けて周囲をねろねろと愛撫してくる。自然と息が上がり、合わせて胸の鼓動が速くなった。
「だめではないだろう? ここはもっとさわってほしがっている」
「ああぁっ!」
 これ見よがしに窄めた舌先で乳首をつついてきた。明確な戦慄が走り、甘い嬌声が漏れてしまう。
「ほら、これはどうだ? 好きだろう?」
 舌の動きは初めはゆっくりと、だんだん執拗になっていく。官能のさざめきで胸が湧き立ち、淫らな衝動に酔った。
 こんなの、変なのに。
 とろけていく思考をなんとか奮い立たせ、潤んだ瞳で下を睨んだ。すると、目が合った景聖は一瞬その瞳に動揺を走らせ、眉根をきつく寄せる。口に含んでいた乳房へ軽く歯を立てた。
「んあぁ……っ!」
 とたん、びりりっと強い疼きが迸る。思わず首をのけぞらせると、慌てた彼の手が支えるように後頭部を押さえてきた。
「煽るな、そんなけしからん格好で……。理性が焼き切れそうになるだろうが」
 雪のごとく白い肌に真紅の紐が絡まり、突き出された乳房は湿気に濡れてなまめかしく光っている。ただそこにいるだけで『落城の美姫』と揶揄される絶世の美貌と理想的な肢体の持ち主が、こんな卑猥な姿をさらしているのだ。理性を失わない男はいない。
 けれども、それはセレスの責任ではない。
 責められても困るわ。
「あなたが、したから……」
「俺のせいだと? バカな。ここへ座れ」
 口調は強いが、肩を押してくる力は柔らかい。促されて、セレスは大理石の浴槽の縁へ腰かけた。後ろ手に縛られているため、むき出しの上半身を彼へ見せつけているようで居心地が悪い。景聖は目の前に屈み込み、咎めるまなざしを送ってきた。
「どうしてこうなったか、今の状況がわかっていないようだな」
「え……」
 裸身を淫らに縛められたこんな妙なこと、到底理解できるわけがない。しかし、なぜか彼のほうが堂々としているから、私が正しい、なんて言える自信がなくなってしまう。
「俺は必死に時間を作った。お前とゆっくり過ごすために。それを、お前はさっさと入浴を済ませて帰りたいと言ったのだ。完全にお前が悪い」
「っ」
 確かに言った。整った容貌で理路整然と告げてくるから、両手を挙げて「自分の非でした」とあっさり認めてしまいそうになる。
 でも!
 セレスはすんでのところで思い留まった。
 違うわ。
 都でやらなければいけないこと、考えなければならないことが山積みなのだ。彼をないがしろにしたいわけではなく、優先すべきことがあるだけ。
 だって私は皇太子妃。私の振る舞いはすべてあなたへ跳ね返る。だからこそ、やめられない。全部あなたのためだから。これが、私があなたと一緒にいるための最善の道だと信じているから。
「また、ほかのことを考えている」
 しかし、あれこれ思考を巡らせているうちに、景聖はいっそう険しい表情になっていた。はっとして首を横に振るが、怒りを煽るだけだった。
「違うの」
「違わない。なにを考えていた」
「それは……」
 思わず口ごもってしまう。今セレスが成し遂げようとしていることを彼へつまびらかにするのは時期尚早だ。彼はセレスに対してひどく過保護で、よかれと思って行動を制限するだろう。その身を守ろうと囲いを作り、すべての憂いから締め出そうとする。
 だけどそれでは、私たちはダメになる。
 街へ出てこの目ですべてを見なくては。まだなにも進んでいない。私には成し遂げなければならない大きな目標がある。
 だけどそれをどうやって伝えたらいいのか決めかねている。彼は全部自分の責任だ、任せておけと言うに違いないから。
 今はまだ、言えない。
 唇を引き結び、うつむいた。
「なぜ黙る」
「……」
「言葉がしゃべれないふりでもするつもりか? そういえばお前は、以前もそうだった」
「っ」
 思いがけず、かつて嘘をついて後宮へ潜入していたことを持ち出してくるから、反射的に顔を撥ね上げる。
 そんな言い方。
 知れず、反抗的な目つきをしていたかもしれない。景聖もまた意固地になって眉を吊り上げた。
「そちらがその気なら、俺も同じように振る舞うまで」
 おもむろにセレスの足首を摑むや、左右へ割り開いてきた。
「きゃっ」
 とっさに手を出そうとしても、縛められていてできない。されるがまま、限界まで開脚させられた。
「あのときと同様、身体に訊いてやろう」
「やぁ……」
「どうした。口では嫌と言いながら、ここはそうでもないらしいぞ」
 人差し指と中指で秘めた花びらにふれてくる。くちゅり……と蜜音が聞こえて、青ざめた。
 嘘。どうして、私……。
 指先が陰唇をくすぐるように上下へ擦ってくる。そのたび、密やかな淫音が浴室内に響き、蜜口がひくついた。
「もっとしてほしいと言っている。こちらのほうがずっと雄弁で、正直者だな。聞きたいことは下の唇へ聞こう」
 二本の指で割れ目を大きくくつろげると、粘ついた糸がぷちゅりと伸びて、これまで以上に聞くに堪えない音が耳を犯した。
「あ……、あ、だめ……」
「俺は下と話すと言っただろう」