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ヴィクトリアン・クロス
~女家庭教師と解かれた淫魔のコルセット~
ゆきの飛鷹 イラスト/早瀬あきら

「淫乱な娘」とあらぬ噂のせいで家庭教師の仕事が長く続かないロクサーナだけど・・・?英国貴族邸を舞台にしためくるめく淫魔ラブ・ロマンス♥ 発売日:2012年5月18日 


「私も、我慢できない」
 彼は、熱っぽい声でそう言った。その声がロクサーナをはっとさせ、同時に強く煽り立てる。
 オーガスタスは、体を起こした。ロクサーナを抱き寄せ、間近から香るサンダルウッド、そしてその姿が薄い月明かりに照らされるのを見、ロクサーナは思わず息を呑んだ。
「……あ、っ」
 同時に彼の、襟もとがくつろげられていることに気がつく。目を逸らせるべきだと思うのに、覗く鎖骨の影は艶めかしく、その肌が淫猥に張りつめているのに視線を奪われてしまう。固唾を呑んだのが、オーガスタスに聞かれてしまっただろうか。
「オーガスタスさま、わたし……」
「立って、ロクサーナ」
 ささやく声は、ロクサーナのドレスを通り抜けてざわめく肌に絡みついた。言われるがままに、ロクサーナは彼の前に立った。足に力が入らず、よろける腰にオーガスタスの手が添えられる。そうやって触れられるだけでも、体はひくひくと反応した。
「ドレスは、脱いで。自分で脱げる?」
 ロクサーナは、操られたように頷いた。先ほどまとったばかりのドレスの襟もとに、手をかける。じっとオーガスタスが見つめている、その青い瞳の温度を感じながら、ボタンに指を絡みつかせる。
 その間、オーガスタスはロクサーナから目を離さなかった。彼は体からは手を離し、しかしロクサーナの指の隅々にまで彼のまなざしは絡みつき、それに煽られるままにロクサーナはドレスを脱いでいく。
 しゅるり、と音がして、ドレスが足もとで小山になった。それを乗り越え、下着をも脱いでいく。その間もずっと、ロクサーナは自分を見つめるオーガスタスの目から視線をはずせない。
「髪、ほどいて」
 言われるがままに、ロクサーナの手は動いた。ネットをはずし、ピンを抜く。すべてを床に落とすのと、拘束から解放された金色の髪がばさりとあたりに広がるのは、同時だった。
 ため息が聞こえた。女の髪は官能を呼ぶ――だから修道女は一筋の髪も見えないように、ヴェールを被るのだ。しかしこうやってオーガスタスの官能を煽ることができるのなら、嬉しいことだとロクサーナは思った。
「……コルセットも」
 コルセットの紐に、指がかかった。オーガスタスは紐を解き、一本を口にくわえて引っ張りながら、もう一本を緩めていく。
 静かな部屋では、コルセットの金属に紐が擦れる音もやたらに耳に届いた。彼の前で何もまとわない姿になるということを意識させられながら、同時にそのことに、体の奥の疼きが大きくなっていく。
 ことん、とコルセットが床に落ちる。シュミーズ一枚になった体は、肌寒さを感じて粟立った。
「それも」
 寒さのせいではなく、ロクサーナは震える。しかしオーガスタスは命令を取り下げるつもりはないらしく、ひと言そう言っただけで、またじっとロクサーナを見つめるのだ。
 小刻みにわななく指先で、ロクサーナはシュミーズの肩紐を引っ張る。もう片方も引っ張って、すると布はすべて、ロクサーナの体からすべり落ちてしまった。
「……きれいだ」
 感嘆の声があがった。ロクサーナは、首を振る。
「たまらなく、きれいだ。……ねぇ、ロクサーナ」
 身に沁みとおるような艶めいた声で、オーガスタスは言った。
「こっちに、来て。もっと近くで、見せて」
 ロクサーナは、オーガスタスの声に煽られる操り人形だった。裸足で床を踏み、ロクサーナを見つめるオーガスタスに歩み寄る。
 互いに視線を絡めたまま、彼もジャケットを脱ぎ、クラヴァットをはずしてシャツをすべらせた。彼の肌が覗く。その艶に目を奪われるロクサーナの前、オーガスタスは手早くトラウザーズをも脱ぎ、ふたりは何まとうものなく、互いに見つめあっている。
「……ぁ、……っ……」
 は、とロクサーナは熱い吐息を吐く。コルセットに締め上げられなくても彼女の細い腰は、伸びてきた手に掴まれた。
「きゃっ!」
 ふたりして、ベッドの上に転がる。ロクサーナは、オーガスタスの上にのしかかる恰好で唖然と目を見開いた。
「あ、っ……」
 仰向けに横たわったオーガスタスは、ロクサーナを見つめて微笑む。頬に手が伸びてくる。引き寄せられるままに唇を寄せて、ふたりはキスを交した。
「……ん、っ……」
 呼気が触れ合う。先ほどはロクサーナから一方的に重ねた唇が、このたびはふたりの意志で合わせられる。何度か、ついばむように触れ合わせ合ったあと、オーガスタスは少し口を開き、ロクサーナの唇全体を包むように合わせてきた。
 そのまま、ちゅく、と吸い上げられる。ずくん、と体の奥がさざめいた。そんなロクサーナの反応もわかっているとでもいうように、オーガスタスは腕を回した体を抱き寄せ、なおもくちづけを深くする。
「ん、……く、……っ……」
 唇越しに噛まれ、吸い上げられ、いったん離れてはまた重ねられる。ふたりの唾液が絡み合い、くちゅくちゅと音がするところに舌が這わせられた。唇の形を辿って舐められ、閉じているところにすべらせられる。溶かされて、ロクサーナが口を開けると舌がすべり込んできた。
「……っ、ん……っ……」
 オーガスタスの舌はロクサーナの口腔で踊り、濡れた音を立てる。歯列を舐められ、ぞくりとする感覚を腰の奥に感じながら、ロクサーナはその奥へとオーガスタスを誘い込む。
 彼の柔らかい舌を軽く噛むようにすると、オーガスタスの動きがとまる。しかし次の瞬間、煽られたように彼は大胆になった。
 歯の裏を舐められる。歯茎に舌が及び、舌先で辿られるとぞくぞくと下肢が震えた。どこを舐められても感じることに、彼の好きにはさせまいと彼の舌をとらえたけれど、そうやって絡み合うことにまた感じて、ロクサーナは堪えきれない声を洩らす。
 舌の表面を擦り合わせ、先端を奪う合うように絡ませて。同時に合わせあった唇が溢れる唾液にさらに濡れ、情熱的なくちづけは音を立ててさらに深くなった。
「あ……く、っ……ん、っ……」
 ロクサーナの意識は、ふと別の箇所に動いた。熱く濡れ始めている両足の間を、押し上げるものを感じる――それはロクサーナの腿に触れていて、固く、同時に熱いものだ。
「……ん、っ!」