TOP>文庫一覧>不埒なロマンス小説の書き方
不埒なロマンス小説の書き方

葉月エリカ イラスト/森白ろっか

キーワード: 西洋 俺様 愛のレッスン

人気作家である母の原稿を失くしてしまい、代わりのロマンス小説を書かされることになってしまったセシリア。編集者のラルフは、濃厚なラブシーンを書くためのレッスンをセシリアに施して…!? 発売日:2013年4月3日 


「っ……ふぁっ……!?」
 皮膚と粘膜の境目をなぞられて、勝手に変な声が漏れる。
(いや……ラルフさんの指、が……)
 男性にしては優美な輪郭を持つ指先が、誰にも触れられたことのないセシリアの柔肉を翻弄していた。ひやりとして感じられるのは、自分のそこが勝手にどんどん熱を孕んでいくからだ。
「やぁぁ……そこ……っ」
 背筋を甘いざわめきが走り、内腿がきゅっと張りつめる。自分で触れているわけでもないのに、そこがぬるついた愛液でじゅくじゅくと濡れそぼっているのがわかった。
(これが、気持ちいいっていう、こと……?)
 愛撫の段取りを知識として知ってはいても、自分の体が本当にこんな反応を示すだなんて。
 自分がとてつもなく淫らな娘なのではないかと不安になるセシリアに、ラルフはかすかな笑みを含んだ声で囁いた。
「まだほんの周辺しか触っていないぞ?」
 とろとろと蜜を零す秘口にはあえて触れずに、左右を守る淡い色の花弁を、縦の輪郭に沿ってラルフはなぞる。それだけでセシリアの腰はびくんと揺れた。両の花弁が寄り合わさった先端で、密やかに眠っていた粒真珠のような膨らみが、すでに姿を現しかけている。
 ラルフの親指が、セシリアのそこに添わされた。性急に擦りたてることはせず、初めての刺激に慣れさせるように、ただやんわりと押さえる。
「ん、ぅん……っ……!」
 じっとしていられないのはセシリアのほうだった。
 秘処の中の秘処を探り当てられて、下腹部の奥がじわりと熱を孕む。拘束されたままの脚が戦慄いて、ソファの肘掛けがまた軋んだ。
「俺の指が押し返されているよ、セシリア」
 快感に凝り固まった花芽は、ラルフの指先にも伝わるくらいに存在を増してしまっていた。
「こうしたらどうかな?」
「ん! あっ、あ、あぁーっ……!」
 くるりと指の腹で円を描かれ、支点にされた場所に火が灯されたかと思った。セシリアの細い喉が反り、剥きだしのままの乳房が大きく弾むように揺れた。
 それを皮切りに、ラルフの攻めは次第に遠慮のないものになった。親指での刺激を与え続けながら、その下でひくつく蜜口に、中指がそろりと忍びこむ。
 愛液でぬめりきった内部は、骨ばった指の第二関節までは容易く呑みこんだ。けれどその先を探られると、鈍く引き攣れるような感覚があって、セシリアは顔をしかめる。
「痛いか?」
「痛い……というか、苦しい、です……」
 他人の一部が体内に入りこんでいる違和感は、男の人にはきっとわからない。
 浅く呼吸し、懸命に耐え忍ぶセシリアに、ラルフは考え込むように首を傾げた。
「これだけで? どうにも前途多難だな……」
 それでもラルフは指を抜かずに、セシリアに無理をさせない範囲でくちくちと内部を探った。柔らかく押したり、爪をたてないように引っ掻いたり、小さな魚が泳ぐようにぱたぱたと上下に揺らしたり。
「あっ――」
 最後のそれが、嵌まった。
「これがいい?」
 セシリアの反応が変わったことに気づいて、ラルフが指の動きを定める。セシリアは反射的にこくんと頷いていた。
 いい、というのが今の感覚のことをいうのなら、きっとこれがそうだ。膣の最奥がかっと熱くなって、何かが蕩け出してしまいそうな――今にも転覆しそうに揺れる船に乗せられているのに、恐怖よりも高揚が先だってしまうような。
「あ……ああ、変です……わたし……」
「おかしくない。そのまま感じていればいい」
 ぴちゃぴちゃと、本当に魚が跳ねているような音が、ひっきりなしに響いていた。お尻の間にまで伝っていく愛液の感触がくすぐったくて、自分がどれほど濡らしてしまっているのかを知る。ドロワーズは脱いだけれど、これではソファの布地に染みを作ってしまいそうだ。
 高価な備品を駄目にしてしまうことに、普段のセシリアならきっと気づいて抵抗した。けれど今は何も考えられない。むず痒いような、痺れるような、初めて味わう種類の快楽に追い上げられて――追いつめられて。
(これ以上何かされたら、ほんとに変になっちゃう……)
 思った瞬間、秘裂の中で蠢く指が抉るような動きに変わった。螺旋を描くように掻き回されて、つんと尖った陰核も親指でくりくりと擦られる。
「ふぁ……んくっ!」
 新たな攻めにセシリアは悶えた。両手で口を塞いでも、普段よりずっと高い声がとめどもなく漏れていく。
「中と外、どちらを弄られるのが感じる?」
 紅茶の好みを尋ねるように訊かれた。
「わか、りませ……どっちも……」
「両方とも気持ちいい?」
「ふ……」
「なるほど。小説のほうはともかく、君にはこちらの才能はあるようだ」
 冗談まじりにしても、あまりの言い草だと思った。
「ひど、い……ラルフ……さんが、してるのに……!」
「俺のせいか? ここがこんなにいやらしくぷつんと腫れているのも? 俺の手首まで垂れてくるくらいに、とろとろの蜜を溢れさせているのも?」
「言わないで、いやぁ……」
「ああ、悪い。状況を言葉にして紡ぐのは君の仕事だったな」
「ラ、ラルフさんは悪趣味、です……っ!」
「よく言われる」
 平然と認めて、ラルフはセシリアの胸に再び吸いついた。下肢を弄る指に加え、舌先で乳首をころころと転がされて、会話などしている余裕は失われた。
「ひぅ……あ、あっ!」
 自分の体が自分のものでなくなってしまったかのようだった。
 どこもかしこも感じるけれど、溢れた蜜を潤滑油にして花芽を親指で擦られるのが、一番鋭い刺激だった。根本に近いところを掘り起こすようにされると、どうしようもなく腰が揺れた。
(何……ここ、何……?)
 普段は意識もしないような場所が、こんなにも罪深い感覚を生む器官だったなんて。知らない間に飲まされた毒が、ふいに全身を蝕み始めたかのようで。
 けれど、その毒はなんて、甘美で魅惑的な味わいなのだろう――。
「もう、だめ……助け、て……っ」
「セシリア」
 思わず零れた言葉に、膝立ちになったラルフが片腕で上体を抱きしめてくれた。すがれるものができた安堵に、セシリアはなりふり構わず広い背中にしがみついた。
「ラ、ラルフさ……ぁん、ああんっ……!」
 強制されてではなく自然に、彼の名を何度も呼んでしまう。
 汗ばんだ髪を撫でたラルフが、セシリアを優しく残酷な陥落に導いた。
「そうだ、そのまま……ほら」
 ぬるついた指が、膨れきった秘芽を潰すように抓みあげた、途端。
「あああ、はっ……だめ……きゃあ、ぁんっ……!」
 腰が別の生き物のようにがくがくと大きく跳ねて、セシリアは絶頂に達していた。
 目に見えない何かに全身を貫かれたように思った。憚りのない声とともに下腹が激しく痙攣し、差し込まれたラルフの指を、濡れた襞がきゅうっと締めつける。
 荒い呼吸を繰り返すセシリアを見下ろし、ラルフが満足そうに呟いた。
「――達(い)けたな」
「あ……」
 乱れたドレスから覗く肌をうっすらと桜色に染め、セシリアは焦点の合わない瞳でラルフを見上げた。
 波間に漂うような頼りない気持ちに、もう少しだけ彼に触れていてほしくなる。だが、無意識に手を伸ばした瞬間、ラルフはすっと身を引いた。
「今の感覚を忘れるな。明日には文章に起こしてもらおう」