姫は甘やかに咲き濡れる
~桜ノ國物語~
蒼井ルリ乃 イラスト/三池ろむこ
桜ノ國を統べる若き桜守りに嫁ぐことになった咲姫は、彼が流泉と光我という双子だと気づく。妻を得て、本当の桜守りになれるのは一人だけ。自分を選んでほしいと迫る二人に夜ごと愛されて…? 発売日:2013年12月3日
~桜ノ國物語~
蒼井ルリ乃 イラスト/三池ろむこ
桜ノ國を統べる若き桜守りに嫁ぐことになった咲姫は、彼が流泉と光我という双子だと気づく。妻を得て、本当の桜守りになれるのは一人だけ。自分を選んでほしいと迫る二人に夜ごと愛されて…? 発売日:2013年12月3日
我知らず後ろへ逃げようとした身体を、ふたりの腕に引きとどめられる。彼らはふたりして、咲姫の腰と背に手を回してきていた。
「どこへ行こうって言うんですか? 気の毒ですが、あなたに逃げ場はありませんよ?」
「大丈夫。おまえは何も考えず、俺たちに身を任せていればいい」
ふたりはそれぞれ咲姫の手を取って、その甲にくちづけてきた。
桜守りである彼らに恭しく扱われることにうろたえつつも、手の甲にあまやかな弾力を感じて、心音が高くなるのを禁じえない。
戸惑ううちに、ふたりの唇が、甲から細い指の先へとうつっていく。
「あなたは爪まで可愛いんですね」
流泉が小さな爪をちろりと舐めた。
「真珠みたいになめらかで、謙虚な艶があって、美しいです、とても」
うっとりと流泉が囁くなか、光我は指の腹に唇を押しつけてくる。
「柔らかいな。食べたくなる」
「さ、桜守りさま、あの……」
「光我だ」
指先から唇を離して、光我がじっと見つめてくる。
「光我、さま」
ほんの囁き声でそう呟くと、彼はふっと表情を緩めた。昨夜から何度か目にした何か含みのある笑みとは違って、屈託のない子どもみたいな笑顔だった。
「そうだ。これからはそう呼べ」
彼は満足げだったが、嬉しそうに指を絡めてこられて咲姫は参ってしまう。
さらに反対側では、流泉が咲姫の指先を握ってくる。
「当然、僕のことは流泉と呼んでくれますよね? 姫」
「え……? あっ……」
返事をしようとする前に、彼は咲姫の手を自らの口元へ運んで、指に舌を這わせてきた。指先から指のつけ根までを舐められ、指の股を舌先でくすぐられる。咲姫はびくびくと、繰り返し身を弾ませては身をよじる。
「な、にをなさって……ぁ、う……」
「あなたを、そそのかしているんです」
いたって真面目な口ぶりと、それを発する流泉の眸は乖離していた。ぎらりと光るような、烈しい熱を宿したような、胸を揺さぶるかがやきが彼の眸にはあった。
それは、光我も同じで……。
気づけば、光我も咲姫の指に、温かく濡れた舌をあてていた。尖らせた舌先で指のかたちを確かめ、そのまま指先を口に含んでしまう。味わうように、舌が指に絡まってくる。
「やっ……やめ、て……」
咲姫はひどく困惑していた。ふたりに指をもてあそばれて感じるのが、くすぐったさのみではなかったからだ。
じわじわと、身体が熱にとらわれていく。その事実に胸がざわめいて、儚い露のように、寄る辺なく心が揺らぐ……。
「もっと味わいたい」
ふいに、流泉が耳元で囁いた。同時に打掛の襟元に触れられる。光我の手だ。
「どう、なさるおつもりなんですか?」
身を固くして尋ねると、光我がふっと笑みを零した。
「俺たちだっておまえを知りたいんだ、姫」
「そう。だから……」
流泉の手がそろそろと這って、細帯の結び目にかけられる。
「あ、いけません」
「見せて、大人になったあなたの身体を」
「大人に、って……ぁ、だめっ」
些細な疑問を口にする暇もなく、流泉が帯をほどいてしまった。前で簡単に結んであるだけなので、実にあっけない。
「昨日もとても佳麗だったが、今日の打掛もよく似合っている」
光我が、桜色の綾地の打掛をまじまじと眺めてくる。
笹や梅、松葉文など。雅やかな模様が淡い色彩の絹糸で刺繍された打掛だ。しなやかな綾地の桜色はほんのりと品のいい色合いで、咲姫も気に入っている。
「本当に、色づきはじめた蕾のような初々しさで、あなたにとても相応しい」
流泉は咲姫の肩から腕へと手をすべらせながらそう言った。
けれど打掛を褒めたふたりは、あっさりとそれを脱がしてしまう。
「ま、待ってください」
うろたえているうちに、打掛は畳の上に落ちていた。桜色よりも濃い、鮮やかな紅花色の間着も帯をほどかれ前が開いており、下着の紅い襦袢がのぞいている。
もちろんすぐに前を掻き合わせようとした。けれども両手はふたりにとらわれたままで、どうしようもなかった。
「大丈夫。まだ肌のほとんどが隠れていますよ、姫」
羞恥に俯く咲姫に、流泉が言った。見つめてくる眸は熱に潤みつつも清らかさを保っている。からかっているわけではなさそうだが、咲姫は眉を八の字にして、なおさら頭を深く垂れた。
「おまえがそんな調子だと、俺たちが意地悪をしている気分になるだろう?」
甘やかすように頭を撫でてきたのは光我だ。だけど言葉とは裏腹に、彼は手をうなじへ向けてすべらせ、髪をひとつにまとめていた元結いをほどいた。
黒くしなやかな髪が、背中に波打って広がる。そのひと束を手に取って、流泉が優美な仕草でそれにくちづけた。
「あなたの髪は、なんて官能的なんでしょう」
「かんの……?」
わからないことばかりだった。
わかるのは、自分がどんどん追いつめられているということだけだ。
「桜守りさま」
困って呼べば、ふたりして間近から見つめてくる。
「名で呼んでください」
「おまえには、名で呼んで欲しいんだ、姫」
哀願するようなふたり眼差し。
混乱する。弱らされているのは咲姫のほうなのに、つめよってきている彼らのほうが、ときどき心細げな顔をする。それゆえ、うっかり従順になってしまうのだ。
「流泉、さま。光我さま」
「どこへ行こうって言うんですか? 気の毒ですが、あなたに逃げ場はありませんよ?」
「大丈夫。おまえは何も考えず、俺たちに身を任せていればいい」
ふたりはそれぞれ咲姫の手を取って、その甲にくちづけてきた。
桜守りである彼らに恭しく扱われることにうろたえつつも、手の甲にあまやかな弾力を感じて、心音が高くなるのを禁じえない。
戸惑ううちに、ふたりの唇が、甲から細い指の先へとうつっていく。
「あなたは爪まで可愛いんですね」
流泉が小さな爪をちろりと舐めた。
「真珠みたいになめらかで、謙虚な艶があって、美しいです、とても」
うっとりと流泉が囁くなか、光我は指の腹に唇を押しつけてくる。
「柔らかいな。食べたくなる」
「さ、桜守りさま、あの……」
「光我だ」
指先から唇を離して、光我がじっと見つめてくる。
「光我、さま」
ほんの囁き声でそう呟くと、彼はふっと表情を緩めた。昨夜から何度か目にした何か含みのある笑みとは違って、屈託のない子どもみたいな笑顔だった。
「そうだ。これからはそう呼べ」
彼は満足げだったが、嬉しそうに指を絡めてこられて咲姫は参ってしまう。
さらに反対側では、流泉が咲姫の指先を握ってくる。
「当然、僕のことは流泉と呼んでくれますよね? 姫」
「え……? あっ……」
返事をしようとする前に、彼は咲姫の手を自らの口元へ運んで、指に舌を這わせてきた。指先から指のつけ根までを舐められ、指の股を舌先でくすぐられる。咲姫はびくびくと、繰り返し身を弾ませては身をよじる。
「な、にをなさって……ぁ、う……」
「あなたを、そそのかしているんです」
いたって真面目な口ぶりと、それを発する流泉の眸は乖離していた。ぎらりと光るような、烈しい熱を宿したような、胸を揺さぶるかがやきが彼の眸にはあった。
それは、光我も同じで……。
気づけば、光我も咲姫の指に、温かく濡れた舌をあてていた。尖らせた舌先で指のかたちを確かめ、そのまま指先を口に含んでしまう。味わうように、舌が指に絡まってくる。
「やっ……やめ、て……」
咲姫はひどく困惑していた。ふたりに指をもてあそばれて感じるのが、くすぐったさのみではなかったからだ。
じわじわと、身体が熱にとらわれていく。その事実に胸がざわめいて、儚い露のように、寄る辺なく心が揺らぐ……。
「もっと味わいたい」
ふいに、流泉が耳元で囁いた。同時に打掛の襟元に触れられる。光我の手だ。
「どう、なさるおつもりなんですか?」
身を固くして尋ねると、光我がふっと笑みを零した。
「俺たちだっておまえを知りたいんだ、姫」
「そう。だから……」
流泉の手がそろそろと這って、細帯の結び目にかけられる。
「あ、いけません」
「見せて、大人になったあなたの身体を」
「大人に、って……ぁ、だめっ」
些細な疑問を口にする暇もなく、流泉が帯をほどいてしまった。前で簡単に結んであるだけなので、実にあっけない。
「昨日もとても佳麗だったが、今日の打掛もよく似合っている」
光我が、桜色の綾地の打掛をまじまじと眺めてくる。
笹や梅、松葉文など。雅やかな模様が淡い色彩の絹糸で刺繍された打掛だ。しなやかな綾地の桜色はほんのりと品のいい色合いで、咲姫も気に入っている。
「本当に、色づきはじめた蕾のような初々しさで、あなたにとても相応しい」
流泉は咲姫の肩から腕へと手をすべらせながらそう言った。
けれど打掛を褒めたふたりは、あっさりとそれを脱がしてしまう。
「ま、待ってください」
うろたえているうちに、打掛は畳の上に落ちていた。桜色よりも濃い、鮮やかな紅花色の間着も帯をほどかれ前が開いており、下着の紅い襦袢がのぞいている。
もちろんすぐに前を掻き合わせようとした。けれども両手はふたりにとらわれたままで、どうしようもなかった。
「大丈夫。まだ肌のほとんどが隠れていますよ、姫」
羞恥に俯く咲姫に、流泉が言った。見つめてくる眸は熱に潤みつつも清らかさを保っている。からかっているわけではなさそうだが、咲姫は眉を八の字にして、なおさら頭を深く垂れた。
「おまえがそんな調子だと、俺たちが意地悪をしている気分になるだろう?」
甘やかすように頭を撫でてきたのは光我だ。だけど言葉とは裏腹に、彼は手をうなじへ向けてすべらせ、髪をひとつにまとめていた元結いをほどいた。
黒くしなやかな髪が、背中に波打って広がる。そのひと束を手に取って、流泉が優美な仕草でそれにくちづけた。
「あなたの髪は、なんて官能的なんでしょう」
「かんの……?」
わからないことばかりだった。
わかるのは、自分がどんどん追いつめられているということだけだ。
「桜守りさま」
困って呼べば、ふたりして間近から見つめてくる。
「名で呼んでください」
「おまえには、名で呼んで欲しいんだ、姫」
哀願するようなふたり眼差し。
混乱する。弱らされているのは咲姫のほうなのに、つめよってきている彼らのほうが、ときどき心細げな顔をする。それゆえ、うっかり従順になってしまうのだ。
「流泉、さま。光我さま」