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王様だけの濃厚ドルチェ
~真夜中のお茶会~
みかづき紅月 イラスト/キツヲ

キーワード: 西洋 王国 お仕置き

皇女アリーチェのもとへ、ある日、煌びやかな宝石箱に入ったチョコレートの詰め合わせとお茶会への招待状が届く。さらに謎の青年から「贈り物は気に入ったか?」と尋ねられ、キスされてしまい…? 発売日:2014年3月4日 


 両手の自由を奪われてしまった瞬間、アリーチェの胸が妖しく高鳴る。
「これで、自分では食べられなくなってしまった。私が食べさせてあげるほかない」
 切れ長の目を細め、嗜虐的な笑みを口端に浮かべると、シリアーヴァはアリーチェの頬を優しく撫でてくる。
 そのエメラルドの瞳に、仄暗い欲望の灯がちらついていることに気付いたアリーチェは、リボンの縛めを解くべく両手に力を込めるが、リボンは手首に食い込み、痕を残すだけ。
 抵抗するアリーチェを愉しげに眺めながら、シリアーヴァはフォークを手にとり、ケーキ皿にのせられた大きなバターケーキを一口分切り分けた。
 それをアリーチェの口元ではなく、自分の口元へと運ぶと、唇で咥え、アリーチェの唇へと寄せていく。
「っ!?」
 顔を必死に背けるアリーチェだが、男性の力に敵うはずもない。
 抵抗空しく、無理やり唇を重ねられてしまう。
「ン……ンンン……」
 濃厚なバタークリームが、瞬く間に口の中で溶けていく。
 上質な発酵バターをふんだんに使ったケーキの口どけは、信じられないほど滑らかで、アリーチェは目を細め、感嘆の吐息を洩らしてしまう。
 しかし、せっかくの素晴らしいケーキなのに、彼女にはじっくりと味わう余裕はない。
 シリアーヴァの柔らかく滑らかな舌が、彼女の舌を捕え、口中をねっとりとした動きでまさぐってきたのだから。
「っふ……ンン……あぁ……」
 舌を執拗なまでに絡められ、甘い快感がアリーチェの頭の芯をたちまち蕩かせていく。
 頬が熱を帯び、全身の血が沸騰し、何も考えていられなくなる。
 どこまでも甘く情熱的なキスに、身体中に震えが拡がっていく。
 アリーチェは、激しく深いキスに、息すら思うようにできず、苦しげに顔を歪める。
 だが、彼女の苦悶の表情が、甘い艶声と共に、何度も何度もしどけなく蕩ける様をシリアーヴァは見逃さない。
 普通、キスといえば目を閉じるものだが、シリアーヴァは、目を開いたまま、眦を上気させ、甘やかな声を洩らすアリーチェを鋭いまなざしで見据えていた。
 息ができず、アリーチェの意識が遠のく寸前で、彼は彼女の唇を一度解放すると、すぐにまたバターケーキを口移しでアリーチェに食べさせていく。
 シリアーヴァは、舌先でアリーチェの歯列を優しくくすぐってきたかと思うと、いきなり舌を奥まで突きいれてきたりもする。
 シリアーヴァのキスは繊細でありながら、時に雄々しく獰猛で、アリーチェの芽吹いたばかりの性感を巧みに引き出していく。
 何も考えていられなくなったアリーチェは気がつけば、くぐもった声を紡ぎ出しながら彼の舌に応じてしまっていた。
 小さな舌をぎこちなくも懸命に動かし、シリアーヴァのそれに絡めていく。
 淫らな水音が、静まり返った庭園へと沁みていった。
 甘く官能的なキスが、二人の身体を昂らせていく。
 ドレス越しに彼の硬さを感じてしまった瞬間、アリーチェの胸は締め付けられる。
 キスの続きを想像してしまい、心臓がさらなる早鐘を打ち始める。
 アリーチェは、シリアーヴァの腕の中で、時折その華奢な身体を痙攣させながら、愉悦のさざ波に身を委ねていた。
 下腹部で快感の塊が弾けるたびに、奥のほうから淫らな蜜が溢れ出してくる。
 やがて、アリーチェの舌も唇も痺れきった頃になって、ようやくシリアーヴァは彼女の唇を解放した。
 アリーチェは、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと、深いため息をつく。
 彼女の唇も、口の周りも唾液に濡れ、月明かりを反射して鈍い光を放っていた。
 荒々しいキスのせいでぷっくりと腫れた彼女の唇を親指でなぞると、シリアーヴァは彼女の蕩けきった表情をじっくりと堪能するかのように眺めてきた。
 あんなにもくるおしいキスの後、きっとはしたない顔をしているに違いない。
 顔を覆い隠したい衝動に駆られるアリーチェだったが、両手を縛められているため、それもかなわない。
 唇をきつく噛みしめると、わざと険しい表情を浮かべて、彼から視線を逸らすことくらいしかできない。
「美味しいバターケーキだっただろう?」
 シリアーヴァがアリーチェに微笑みかけながら尋ねてきた。
 アリーチェは、あさっての方向を向いたまま何も答えない。
 ドレスの下で蠢く欲望の証が、気になって落ち着かない。
 と、そのときだった。
「──そろそろ君も食べごろになっただろう」
 シリアーヴァの声色が一転して、危険な鋭さを帯びた。
 嗜虐の気配を色濃く滲ませた彼の言葉に、アリーチェの心臓が跳ねる。
「ひ、人を……食べ物のように言わないで! 失礼極まりないわ」
「君は、私にとって世界に一つの究極のドルチェだ。今宵も堪能させてもらおう」
 そう言うと、シリアーヴァはバターケーキのかけらをアリーチェの胸元へとわざと落としてみせた。
「っ!? あ……い、いや……や、め……て。私は……ドルチェなんかじゃ……」
 上等のバターであればあるほど、溶けやすいもの。
 コルセットに絞り出され、強調された胸のふくらみに落とされたバターケーキは、アリーチェの熱によってゆっくりと溶けていき、胸の谷間へと滑り落ちていった。
 白磁の滑らかな肌にバタークリームが溶けていく様を眺めながら、シリアーヴァは彼女の背を机の縁へと押し付けたかと思うと、ドレスをコルセットもろとも、裂けんばかりの勢いで力任せに引き下げた。
 柔らかそうな二つの果実が、コルセットの中から外へと、弾みながらまろびでてくる。
「や……あ、あぁ。だ、駄目……見ないで! い、や……あぁ……」