禁じられた戯れ
王太子の指は乙女を淫らに奏で
あまおう紅 イラスト/花岡美莉
パヴェンナ王国の王女エウフェミアは親を早くに亡くし、王太子ヴァレンテだけを頼りに生きてきた。 隣国の王子クラウディオと「白い結婚」をし、自国で暮らしていたが、彼が迎えに来ることに…? 発売日:2014年5月2日
王太子の指は乙女を淫らに奏で
あまおう
パヴェンナ王国の王女エウフェミアは親を早くに亡くし、王太子ヴァレンテだけを頼りに生きてきた。 隣国の王子クラウディオと「白い結婚」をし、自国で暮らしていたが、彼が迎えに来ることに…? 発売日:2014年5月2日
「近々クラウディオ王子が来る」
「え……?」
「ミゼランツェの王子として――そしておまえの夫として、叔父上を公式に訪ねてくる」
「――そう、ですか……」
隣国ミゼランツェの王子クラウディオは、四年前、エウフェミアが十三歳のときに「再婚」した相手である。しかし最初の結婚と同じく、花嫁であるエウフェミアがまだ幼かったため、一度も夫婦関係を持たないまま、お互いの国で別々に暮らしていた。
その「夫」が来ることを、どう受け止めていいのかわからない。
(だって……会ったのは、四年前に一度だけ――)
三つ年上の、明るい金の髪に青い瞳を持つ美しい少年だった。それ以外の印象はない。
(――……)
クラウディオ王子は自分を迎えに来るのだろうか? 今度こそ相手に従って、ミゼランツェに赴くことになるのだろうか。住み慣れたパヴェンナを離れて。――兄と離れて。
様々な問いを込めて見上げると、兄はふいに顔を近づけてきた。
「――っ」
くちびるが触れそうになり、とっさに身を引く。何のつもりかと息をのむエウフェミアに薄い笑みで応じ、彼は妹の身体を寝台に横たえて両脇に手をついた。
見下ろしてくる仄暗い眼差しに、わけもなく心臓がざわつき始めた。どうしよう。今夜の彼はいつもとちがう。
「……兄様……?」
「心配するな。クラウディオ王子が来ても何も変わらない」
「そう……?」
と、――クラウディオ王子ではなく、兄への不安を押し殺している妹へ、彼はまたしてもくちびるを寄せてきた。
「兄様……!」
強く呼び掛けると、ヴァレンテは動きを止め、琥珀色の瞳をこちらに据えたまま静かに言った。
「夫を、決してこの寝室に入れるな。それからおまえも、夫の部屋に足を踏み入れてはならない。侍女によく言い聞かせておくが、自分でも気をつけるんだ。……いいな?」
「……はい……」
「こんなふうに夜着一枚のあられもない姿を、相手に決して見せるな。……おまえのこんな恰好を目にしていいのは私だけだ」
「……いやですわ。おかしなこと言わないで……」
「おかしなものか」
ひどく緊張している妹を笑い、彼はあろうことか――エウフェミアの、薄い夜着の上から胸のふくらみにふれてきた。
「兄様……!?」
大きな手でふくらみを包み込まれ、声をうわずらせてしまう。それだけではない。手は、包んだふくらみの大きさを確かめるように、押しまわしてきた。
「な……、なにを……っ」
自分の身に起きていることが信じられず、エウフェミアは細い声をしぼり出す。
「――兄様……っ」
しかし兄はそれにかまわず、両手でふくらみを真ん中に寄せ、鼻先をうずめてくる。
「……いい匂いだ……」
酔いしれるようにつぶやきながら、彼はさらに、まろやかな丘に頬を押し当ててきた。
「血を見てきたせいで気が昂ぶっているようだ。なぐさめてくれ、エウフェミア……」
薄い白絹の夜着は、肌に触れる感触をほとんどそのまま伝えてくる。つまり逆もまたしかりということだ。
エウフェミアの胸の大きさも、やわらかさも、ヴァレンテにすべて知られてしまったにちがいない。他でもない、血を分けた実の兄に……!
戯れですませることのできないその行いに、うろたえながらも声を強める。
「兄様……!」
そして相手の肩をつかみ、力を込めて押しのけようと試みた。
「い、いけません……」
「何が?」
「何って――……」
「兄が妹にふれて何が悪い? いままでは嫌がったりしなかったのに」
「ですがいままでは……っ」
確かにこれまでにも、彼がふざけてふれてくることはあった。しかしそれは腕や肩といった、どうということのない箇所だった。いま行われていることとは、まったくちがう。
それなのに――エウフェミアが混乱し、何とかやめさせようとしているというのに、兄はまるで構う様子を見せなかった。おまけに。
「……、ぁ、……っ」
緩慢に、艶めかしく。慣れた手つきでふくらみを捏ねられているうち、混乱に跳ねる心臓の熱がすみずみにまで伝わり、全体が張りつめてくる。
じわりじわりと……胸の奥から疼くようなさざめきが生じ、それは薄絹に包まれた肌をいっそう敏感にし、ちりちりとした刺激となって頂をさいなんだ。
どうにもくすぐったい感覚に身をよじるうち、揉まれている胸だけでなく、顔までもがほてり、ひとりでに息が乱れる。
これは何だろう? なぜ自分は、血を分けた兄からこんなふうに淫らにふれられているのだろう?
初めて経験する感覚は、ひどく甘やかで……それゆえに流されてしまいそうになる自分を、懸命に奮い立たせた。
「――いや……やめて、ください……っ」
「本当に? やめてほしいのか?」
低い声が笑みを含んでささやく。その直後、不埒な指先が、いつのまにか硬くなっていたふくらみの先端をきゅっとつまんだ。
「……あっ……!」
指の腹ではさまれ、ぞくりと発した切ない痛みに、肩が跳ねてしまう。
その心地よい感覚にとまどい見上げた先で、強く焦がれる琥珀色の瞳を目が合い――とたん、禁忌という言葉が胸を射抜いた。
いけない……!
人の道を踏み外させる悪魔の誘惑から逃れようと、エウフェミアはその瞬間、渾身の力で兄の身体を突き飛ばす。
「やめて兄様……!」
それは厚みのある兄の胸を少しゆらした程度だったが、必死な感情が伝わったのか、彼はゆっくりと身を離した。そしてしばらくの後、取ってつけたように噴き出す。
そして笑いをかみ殺すしぐさで頭をふった。
「少しふざけすぎたか」
「――……っ」
ちがう。質の悪いいたずらということにしたいようだが――笑顔の中、昏い影を宿す琥珀の瞳は冴え冴えと冷えている。
(兄様。まさか――……)
おそろしくて、その先を追究することができない。
胸を押さえて瞳をゆらす妹に、彼は薄い笑みを浮かべ、底の読めない眼差しを向けてきた。
「エウフェミア。この世でもっともおまえを愛しているのは私だ。誰一人として、私以上にお前を愛することなどできはしない。よく覚えておけ」
「――わたくしも……大好きよ、兄様……」
これまで当たり前のように返していた言葉が、いまは、どうしても喉で引っかかる。けれど、起きたことをなかったことにしたい一心で、エウフェミアはぎこちなく声をつむいだ。
「……愛しているのも、信じているのも、あなただけ」
「え……?」
「ミゼランツェの王子として――そしておまえの夫として、叔父上を公式に訪ねてくる」
「――そう、ですか……」
隣国ミゼランツェの王子クラウディオは、四年前、エウフェミアが十三歳のときに「再婚」した相手である。しかし最初の結婚と同じく、花嫁であるエウフェミアがまだ幼かったため、一度も夫婦関係を持たないまま、お互いの国で別々に暮らしていた。
その「夫」が来ることを、どう受け止めていいのかわからない。
(だって……会ったのは、四年前に一度だけ――)
三つ年上の、明るい金の髪に青い瞳を持つ美しい少年だった。それ以外の印象はない。
(――……)
クラウディオ王子は自分を迎えに来るのだろうか? 今度こそ相手に従って、ミゼランツェに赴くことになるのだろうか。住み慣れたパヴェンナを離れて。――兄と離れて。
様々な問いを込めて見上げると、兄はふいに顔を近づけてきた。
「――っ」
くちびるが触れそうになり、とっさに身を引く。何のつもりかと息をのむエウフェミアに薄い笑みで応じ、彼は妹の身体を寝台に横たえて両脇に手をついた。
見下ろしてくる仄暗い眼差しに、わけもなく心臓がざわつき始めた。どうしよう。今夜の彼はいつもとちがう。
「……兄様……?」
「心配するな。クラウディオ王子が来ても何も変わらない」
「そう……?」
と、――クラウディオ王子ではなく、兄への不安を押し殺している妹へ、彼はまたしてもくちびるを寄せてきた。
「兄様……!」
強く呼び掛けると、ヴァレンテは動きを止め、琥珀色の瞳をこちらに据えたまま静かに言った。
「夫を、決してこの寝室に入れるな。それからおまえも、夫の部屋に足を踏み入れてはならない。侍女によく言い聞かせておくが、自分でも気をつけるんだ。……いいな?」
「……はい……」
「こんなふうに夜着一枚のあられもない姿を、相手に決して見せるな。……おまえのこんな恰好を目にしていいのは私だけだ」
「……いやですわ。おかしなこと言わないで……」
「おかしなものか」
ひどく緊張している妹を笑い、彼はあろうことか――エウフェミアの、薄い夜着の上から胸のふくらみにふれてきた。
「兄様……!?」
大きな手でふくらみを包み込まれ、声をうわずらせてしまう。それだけではない。手は、包んだふくらみの大きさを確かめるように、押しまわしてきた。
「な……、なにを……っ」
自分の身に起きていることが信じられず、エウフェミアは細い声をしぼり出す。
「――兄様……っ」
しかし兄はそれにかまわず、両手でふくらみを真ん中に寄せ、鼻先をうずめてくる。
「……いい匂いだ……」
酔いしれるようにつぶやきながら、彼はさらに、まろやかな丘に頬を押し当ててきた。
「血を見てきたせいで気が昂ぶっているようだ。なぐさめてくれ、エウフェミア……」
薄い白絹の夜着は、肌に触れる感触をほとんどそのまま伝えてくる。つまり逆もまたしかりということだ。
エウフェミアの胸の大きさも、やわらかさも、ヴァレンテにすべて知られてしまったにちがいない。他でもない、血を分けた実の兄に……!
戯れですませることのできないその行いに、うろたえながらも声を強める。
「兄様……!」
そして相手の肩をつかみ、力を込めて押しのけようと試みた。
「い、いけません……」
「何が?」
「何って――……」
「兄が妹にふれて何が悪い? いままでは嫌がったりしなかったのに」
「ですがいままでは……っ」
確かにこれまでにも、彼がふざけてふれてくることはあった。しかしそれは腕や肩といった、どうということのない箇所だった。いま行われていることとは、まったくちがう。
それなのに――エウフェミアが混乱し、何とかやめさせようとしているというのに、兄はまるで構う様子を見せなかった。おまけに。
「……、ぁ、……っ」
緩慢に、艶めかしく。慣れた手つきでふくらみを捏ねられているうち、混乱に跳ねる心臓の熱がすみずみにまで伝わり、全体が張りつめてくる。
じわりじわりと……胸の奥から疼くようなさざめきが生じ、それは薄絹に包まれた肌をいっそう敏感にし、ちりちりとした刺激となって頂をさいなんだ。
どうにもくすぐったい感覚に身をよじるうち、揉まれている胸だけでなく、顔までもがほてり、ひとりでに息が乱れる。
これは何だろう? なぜ自分は、血を分けた兄からこんなふうに淫らにふれられているのだろう?
初めて経験する感覚は、ひどく甘やかで……それゆえに流されてしまいそうになる自分を、懸命に奮い立たせた。
「――いや……やめて、ください……っ」
「本当に? やめてほしいのか?」
低い声が笑みを含んでささやく。その直後、不埒な指先が、いつのまにか硬くなっていたふくらみの先端をきゅっとつまんだ。
「……あっ……!」
指の腹ではさまれ、ぞくりと発した切ない痛みに、肩が跳ねてしまう。
その心地よい感覚にとまどい見上げた先で、強く焦がれる琥珀色の瞳を目が合い――とたん、禁忌という言葉が胸を射抜いた。
いけない……!
人の道を踏み外させる悪魔の誘惑から逃れようと、エウフェミアはその瞬間、渾身の力で兄の身体を突き飛ばす。
「やめて兄様……!」
それは厚みのある兄の胸を少しゆらした程度だったが、必死な感情が伝わったのか、彼はゆっくりと身を離した。そしてしばらくの後、取ってつけたように噴き出す。
そして笑いをかみ殺すしぐさで頭をふった。
「少しふざけすぎたか」
「――……っ」
ちがう。質の悪いいたずらということにしたいようだが――笑顔の中、昏い影を宿す琥珀の瞳は冴え冴えと冷えている。
(兄様。まさか――……)
おそろしくて、その先を追究することができない。
胸を押さえて瞳をゆらす妹に、彼は薄い笑みを浮かべ、底の読めない眼差しを向けてきた。
「エウフェミア。この世でもっともおまえを愛しているのは私だ。誰一人として、私以上にお前を愛することなどできはしない。よく覚えておけ」
「――わたくしも……大好きよ、兄様……」
これまで当たり前のように返していた言葉が、いまは、どうしても喉で引っかかる。けれど、起きたことをなかったことにしたい一心で、エウフェミアはぎこちなく声をつむいだ。
「……愛しているのも、信じているのも、あなただけ」