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皇太子さまのお気に入り
買われた踊り子は後宮ハレムで乱されて
木ノ咲もか イラスト/風コトハ

キーワード: アラブ風

継母と義姉に虐げられているラティヤにとって、心の支えは母の言葉と、踊りだけ。 だがラティアは女奴隷として売り飛ばされてしまう。
彼女を競り落としたのは、紺藍の瞳が印象的な一人の男。
宮殿のような豪邸に住む彼は、ラティヤに「寵姫のふりをしてほしい」と言ってきて…?
発売日:2014年8月30日 


(……いけないわ。こっ、こんな……こと、私……)
 ふしだらな女は下腹部から汚らわしい蜜を滴らせて恥ずかしげもなく男を誘うのだとプーネフが言っていた。お前の母親はそうやっていろんな男を惑わせてきた女なのだと。
『お前が母親みたいないやらしい女にならないように見張っておかないとね!』
 母がふしだらだったとは思えない。ふしだらというなら、プーネフのほうがよほどふしだらだ。父が不在のとき、プーネフはタガーンをはじめとして若い愛人をとっかえひっかえしている。姉たちだって嫁入り前なのに、夜を共にする恋人が何人もいる。
(私は……違うと思ってたのに……どうして……?)
 ラティヤは男というものを恐れていたし、男と二人きりで朝まで過ごすなんて想像しただけで泣きたくなった。ふしだらになんて、なるはずがなかった。……でも。
(アルザーク様は怖くなくて、優しくて、素敵で……)
 好きになってしまいそうだ。いや、とっくに好きになっているのかもしれない。どちらにしても同じことだ。いくらラティヤがアルザークに想いを寄せても報われることはない。
愛撫されて秘処を潤ませるような淫らな娘をアルザークが好きになるはずがない。きっと呆れられた。下品な女だと軽蔑されただろう。
「ごめ……なさいっ……ほんとうに……ご、ごめんなさい……」
 胸が詰まって、ぽろぽろと涙が流れた。怖くて振り返ることができない。アルザークの瞳に侮蔑の色が映っていたら――プーネフに鞭打たれたときの何倍も苦しいはずだ。
「ラティヤ……」
 溜息まじりに名を呼んで、アルザークは強張った白い内腿の間から手を引いた。
乳房からも掌が離れてほっとする傍ら、彼のぬくもりが消えてしまったことにがっかりしてしまう。浅ましい自分にますます嫌気がさして、ラティヤの視界が涙で覆われた。
背中を丸めて嗚咽していると、何かが肩にふわりとかけられた。うっとりするような麝香の匂いに身体を包まれる。上衣に重ねて羽織っていたアルザークの上着だ。
「すまない。君がそんなにいやがると思わなかったから……」
 ラティヤがおそるおそる振り返ると、アルザークは目をそらした。
「……なぜ、あなたが謝るんですか?」
「なぜって……君を泣かせたからさ。今日の君はとびきり魅力的で、可愛くて、触りたくなって……我慢できなかった。怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
 こちらに険しい横顔を向け、アルザークは黙りこんだ。冷淡な水音が沈黙を埋めていく。
 ラティヤは上着の前身頃を掻きあわせた。不機嫌そうな彼の表情を見て胸が痛む。
「……ごめんなさい」
「悪いのは私だ。君じゃない」
「いえ、私がいけないんです。ふ……ふしだら、だから……」
「君が……ふしだらだって? 何を言っているんだ?」
 アルザークがいぶかしげな視線を投げる。ラティヤは逃げるように顔をそむけた。
「だって私……さっき、あ、あなたの……手を、ぬ、濡らして、しまって……」
 下肢に甘美な痺れが残っている。彼の指の感触を思い出すだけで、そこがかあっと熱くなる。忌まわしい場所を触られて気持ちよくなるなんて、ふしだらな証拠だ。
「こっ、これからは、濡らさないように……頑張りますから、あ、呆れないで……。私のこと、嫌いに、ならないで……ください」
 だんだん声が小さくなる。ばかなことを口走っているという自覚はある。淫奔な身体をしているくせに、嫌いにならないでほしいと懇願するなんて。あまりにも厚かましすぎる。
 愚かしい願いだと承知していても口にせずにはいられない。アルザークに嫌われたくなかった。もし、可能ならば――好かれたいとすら考えていた。
「君は……自分が『ふしだら』だから泣いていたのか?」
「……はい。あなたに軽蔑されるのは、とても苦しくて……」
 アルザークの上着を握りしめてうなだれる。黒髪が重苦しく垂れて視界に影を落とした。
「私は君を軽蔑したりしないよ。むしろ、君に幻滅されたと思った」
「え? わ、私が、あなたに幻滅? どうして?」
「君に不快な思いをさせてしまったから。私に触れられるのがよほどいやだから泣き出したんだろうと思ったんだけど、違うのかい」
「違います……! あなたに触れられるのをいやだと思ったことはありません」
「本当かい? じゃあ……こんなふうに触っても平気?」
 アルザークが注意深い動作でラティヤの頬に手をそえた。再び彼のぬくもりを感じることができて胸がとくんと鳴る。ラティヤは「平気ではありません」とつぶやいた。
「……あなたに、触られると、ドキドキして……ふわふわするような感じが……」
「私も同じだ」
 アルザークは身を屈めた。ラティヤの唇をついばんで微笑む。
「こうやって君に触れると、君に夢中になってしまう」
 答える前に唇が重なる。互いのぬくもりが一つになるとわだかまりも溶けていく。
「嫌われてなくてよかった」
 安心したふうに溜息をついて、アルザークはラティヤを抱き寄せた。
「あなたこそ、私に呆れてしまわれたのではありませんか……?」
「君がここを濡らしていたから?」
「ひぁっ……ん、はぁ……」
 アルザークが内腿のあわいに手を差し入れてきた。潤んだ花唇にぬるりと指を這わされ、下腹部が切なく痺れる。未熟な花弁を優しく擦られただけでとろみのある滴があふれてきて、呼吸が荒くなるのを止められない。しだいに下肢全体が快美な感覚に支配されていく。
「嬉しいよ」
 耳を疑った。ラティヤは涙をにじませた瞳でアルザークをとらえた。
「君が気持ちよくなってくれて嬉しい」
「アルザーク様……ふ、っ」
せわしない吐息をもらす唇をふさがれ、ゆっくりと身体を横たえられる。天鵞絨のクッションに青みがかった黒髪が広がり、髪につけたジャスミンの香りがふんわり舞い上がった。
口づけは唇から頬へ、頬から顎先へ、顎先から喉元へと徐々に下へ移ろっていく。甘やかな責め苦がツンと上向いたふくらみの頂に達した瞬間、淫靡な悦びが頭まで突き抜けた。
「あぁっ、ん、ぁんっ……ぅ」
 甲高い喘ぎが丸天井に響いて、どうしようもなく恥ずかしい。口に手を当てて嬌声を抑えこもうとした。けれど、不埒な刺激で敏感になった先端を吸われると指の間から声がもれる。
「可愛い声だね。ここみたいにとても甘い」
「ん……はぁ、ああっ……だめ……」
 ラティヤは悩ましげに身をよじった。快感に素直な胸の蕾を舐められ、唇でしごかれ、舌先で転がされる。愉悦に翻弄されるままに、意味のない言葉を口走った。
「ふしだらでいいんだよ、ラティヤ」
 喘ぎを封じこめようとして口に当てていた手を掴まれ、クッションに沈められた。震える唇をついばまれる。何度も舌を絡められて、吐息が混ざり合う。
「感じてる君が好きだ」
 こちらを見下ろす紺藍の瞳に蔑みの色はみじんもない。それどころか、愛おしげに細められている。彼の眼差しを貪るように、ラティヤはアルザークを見上げた。
「君をもっとふしだらにしたいな」
 ぐっと左足を持ち上げられ、膝を折り曲げるようにして押し開かれる。
隠さなければならない部分がアルザークの眼差しに貫かれた。園亭をぐるりと囲う水の紗幕は日差しを遮ってはくれない。濡れそぼった花弁の色形までありありと見られてしまう。
「や……そ、そんな汚らわしいところ、見ないで……」
 熟した水林檎のように顔が赤い。ラティヤは脚を閉じようとしたが、身体に力が入らなくて、もどかしげに腰を揺らすことしかできなかった。
「汚らわしい? 君の目にはそう見えるのかい? それとも、見たことがない?」
 開いた脚の間にアルザークが顔を埋める。太腿の裏を掌で丁寧に愛撫されて、淫らな悦びが柔肌の内側から下腹部を揺さぶった。
「すごく綺麗だ。舐めさせて」
 熱情を孕んだ吐息が愛蜜に濡れた花唇をくすぐる。ラティヤは首を左右に振った。
「なっ、舐めるなんて……だ、だめですっ」
「どうして? 君のここがどれくらい甘いか味わいたいんだ」
 アルザークの息遣いが脚の付け根に深く沈もうとした瞬間。
鷲の鳴き声が園亭を覆う繊細な水の旋律を引き裂いた。
「……オズか」
 アルザークは苛立たしげにつぶやいた。その憎らしそうな響きすらも感じやすい場所を刺激して、ラティヤはビクンと全身を戦慄かせた。
「朝から晩まで一緒にいられたらいいのに」
 ラティヤに覆いかぶさり、アルザークは名残惜しそうに唇を合わせた。
「次に会うとき、今日の続きをしてもいいかい?」
 甘えるように目をのぞきこまれて、胸の奥がきゅっとなった。
(……私、アルザーク様のこと……好きなんだわ)
 今更のように思い知る。いつから好きだったのだろう。もしかしたら奴隷市場で出会ったときからかもしれない。わずかにためらった後、ラティヤは萎えた右腕を何とか上げてアルザークの頬に触れてみた。滑らかな褐色の肌はひどく温かい。彼の心みたいに。
「……はい」
 繰り返し交わる唇がプーネフに刻みつけられた呪いの言葉を打ち消していく。
胸をあらわにして、片足を開かされたままで、のしかかるように口づけされるのはふしだらな行為かもしれない。だが、アルザークが受け入れてくれるならそれでもいい。
(もう少し、待って……。もう少しだけ……)
 アルザークを急かすオズの声が遠ざかる。ラティヤは注がれる熱に酔いしれた。