溺愛プリンスの罠
水島 忍 イラスト/綺羅かぼす
隣国の王子に嫁ぐはずだったフィオーナは、その婚姻をよしとしない大国の王子グイードに連れ去られてしまう。グイードを信用できないフィオーナだが、身も心も優しく甘やかされるうちに…? 発売日:2014年11月29日
水島 忍 イラスト/綺羅かぼす
隣国の王子に嫁ぐはずだったフィオーナは、その婚姻をよしとしない大国の王子グイードに連れ去られてしまう。グイードを信用できないフィオーナだが、身も心も優しく甘やかされるうちに…? 発売日:2014年11月29日
書斎は壁という壁に、天井までずらりと書棚が並んでいた。そこに分厚い本がびっしりと収められている。書斎と図書室を兼ねているのだ。
そこにあった長椅子を勧められて、フィオーナは腰かけた。彼は二つのグラスに葡萄酒を注ぎ、テーブルの上に置く。そして、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に、彼は腰かけた。
だが、二人とも言葉が出てこない。フィオーナはしばらく葡萄酒の入ったグラスを見つめていたが、ふと目を上げた。グイードはずっとこちらを見つめていて、二人の目が合う。
フィオーナは視線を逸らそうとした。しかし、どうしても目が離せなくなってしまって……。
彼はフィオーナに目を据えたまま、グラスを手に取り、口に運ぶ。まるで魅せられたように、フィオーナはじっと彼を見つめていた。
彼の口元に目が吸い寄せられる。グラスを傾けると、赤い葡萄酒が彼の口の中に入っていく。それを、フィオーナは見守っていた。
「フィオーナ……」
敬称抜きで名前を呼ばれて、はっとする。何故だか、彼の雰囲気が変わったような気がする。
何……? なんなの?
よく判らないが、大きな肉食獣が目覚めたみたいに見えてしまって、フィオーナは身震いをした。
「寒いのかい?」
彼が使者という仮面を取り去り、別のものに変わったのだと、今はっきりと判った。
これが『彼』の本当の姿なの?
どうしよう。わたし……。
真っ逆さまに自分が穴に落ちていくような感覚を覚えた。
今、気づいた。自分が罠に堕ちたことを。
彼から離れられない。『心が惹きつけられる』なんて生易しいものではなく、もはやフィオーナの心は彼の前に投げ出されていた。
彼の口元がニヤリと笑う。
一瞬、フィオーナの息が止まる。
「いらないのか?」
葡萄酒のことだと判っている。けれども、何か違うもののことを仄めかされたような気がして、どう答えていいか判らなかった。
「それなら、飲ませてやろう」
「え……?」
彼は手を差し出した。
「こちらへ」
彼のそんな傲慢な指図の仕方に怒るべきだ。今すぐ決然と立ち上がり、この書斎を出ていき、彼の思い上がった心根を叩き潰すべきだった。
けれども、フィオーナが取った行動は違っていた。
ふらふらと立ち上がり、彼の手に吸い寄せられるように近づいた。彼の腕がさっとフィオーナの身体に巻きついたかと思うと、彼の膝の上に乗せられてた。
胸の鼓動が速くなっている。
ああ、わたし……どうしたらいいの?
ヴァレティナ王国の王女フィオーナ。その立場のことが頭を掠めていく。しかし、彼の片方の手が頬に添えられると、何もできなくなった。
彼はグラスに入っていた葡萄酒を少し口に含み、そのまま唇を近づけてくる。
フィオーナは彼の唇を拭注がれた。そうして、少量の葡萄酒を口に流し込まれる。
ゴクンとそれを飲み干したとき、唇が離れる。彼の燃えるような眼差しに射すくめられ、フィオーナは小さく息をついた。
初めてのキス……。
それは紛れもなく、フィオーナが初めてしたキスだった。
彼はグラスをテーブルに置いた。そして、もう一度ゆっくりとキスをしてくる。
唇が重なるだけでなく、舌を差し込まれる。息もつけない。
ああ、誰かわたしを助けて!
けれども、なんのために助けを求めているのか、自分でも判らない。ただ逃げたかった。己のしていることがあまりにも恐ろしすぎて手か。
これはしてはならないことだと判っている。国のためを想うなら、絶対にしてはならない。キスくらい、婚約者には判らないだろうという考えは、大間違いだ。
教会で愛を誓うときに、他の男性とこんな魂を奪われるような激しいキスをしたことを、絶対に思い出すに違いない。
そのとき……わたしは素知らぬふりをして、神の前で誓えるの?
ハンスに終生変わらぬ愛を誓えるの?
わたしには無理……!
心は粉々に壊れて、バラバラになりそうだった。彼は唇を離しては、また重ねる。それを何度も繰り返しているうちに、フィオーナの身体は燃え上がり、何も判らなくなっていた。そして、いつしかね自分から求めるように彼に舌を絡めていたのだ。
もう……ダメ。
二人きりになれば、こうなることが判っていたのに、どうしてのこのこと書斎についてきてしまったのだろう。けれども、自分ではどうしようもなかったのだ。とても止められなかった。止められるなら、それは本当の恋ではない。ただ身も心も、フィオーナは彼を求めていた。
彼の手がフィオーナの背中を撫で、腕を撫でさする。そして、胸のふくらみにも触れてくる。
「君には判っていたはずだ。私がこの桃のようにふくらみに心を奪われて、手を出さずにはいられなくなることを……」
「そ、そんなことは……」
「いや、君は誘っていたよ。身体で、目で、口元で……仕草で……」
そんなことはない。誘っていたのはグイードのほうだと言いたかったが、またキスをされて、何も言えなくなった。
荒々しい彼の仕草に惹かれる。上品なのに、どこか野性的で……。
たまらなかった。
「わたし……こんなつもりでは……」
「嘘をつくな。君も求めていた」
決めつけられてしまったが、確かに彼の言うとおりかもしれない。彼をどうしようもなく求めていた。
求めていなかったとか、悪いのは彼のほうだと言うのは嘘だし、彼への裏切りかもしれない。
でも……でも……。
わたしは彼に身を任せてはならない理由がある!
身を引き裂かれるような気持ちで、彼から離れようとした。しかし、彼はそれ許してくれなかった。逆に引き寄せられ、唇を深く奪われる。
彼はフィオーナが屈服することを望み、そして、待っていた。
身体が熱い。熱くてたまらない。とにかく彼の腕に抱かれて、我を忘れるほどすべてを奪ってほしかった。
「『上』へ行こう」
彼が何かを囁いた。
そこにあった長椅子を勧められて、フィオーナは腰かけた。彼は二つのグラスに葡萄酒を注ぎ、テーブルの上に置く。そして、テーブルを挟んだ向かい側の椅子に、彼は腰かけた。
だが、二人とも言葉が出てこない。フィオーナはしばらく葡萄酒の入ったグラスを見つめていたが、ふと目を上げた。グイードはずっとこちらを見つめていて、二人の目が合う。
フィオーナは視線を逸らそうとした。しかし、どうしても目が離せなくなってしまって……。
彼はフィオーナに目を据えたまま、グラスを手に取り、口に運ぶ。まるで魅せられたように、フィオーナはじっと彼を見つめていた。
彼の口元に目が吸い寄せられる。グラスを傾けると、赤い葡萄酒が彼の口の中に入っていく。それを、フィオーナは見守っていた。
「フィオーナ……」
敬称抜きで名前を呼ばれて、はっとする。何故だか、彼の雰囲気が変わったような気がする。
何……? なんなの?
よく判らないが、大きな肉食獣が目覚めたみたいに見えてしまって、フィオーナは身震いをした。
「寒いのかい?」
彼が使者という仮面を取り去り、別のものに変わったのだと、今はっきりと判った。
これが『彼』の本当の姿なの?
どうしよう。わたし……。
真っ逆さまに自分が穴に落ちていくような感覚を覚えた。
今、気づいた。自分が罠に堕ちたことを。
彼から離れられない。『心が惹きつけられる』なんて生易しいものではなく、もはやフィオーナの心は彼の前に投げ出されていた。
彼の口元がニヤリと笑う。
一瞬、フィオーナの息が止まる。
「いらないのか?」
葡萄酒のことだと判っている。けれども、何か違うもののことを仄めかされたような気がして、どう答えていいか判らなかった。
「それなら、飲ませてやろう」
「え……?」
彼は手を差し出した。
「こちらへ」
彼のそんな傲慢な指図の仕方に怒るべきだ。今すぐ決然と立ち上がり、この書斎を出ていき、彼の思い上がった心根を叩き潰すべきだった。
けれども、フィオーナが取った行動は違っていた。
ふらふらと立ち上がり、彼の手に吸い寄せられるように近づいた。彼の腕がさっとフィオーナの身体に巻きついたかと思うと、彼の膝の上に乗せられてた。
胸の鼓動が速くなっている。
ああ、わたし……どうしたらいいの?
ヴァレティナ王国の王女フィオーナ。その立場のことが頭を掠めていく。しかし、彼の片方の手が頬に添えられると、何もできなくなった。
彼はグラスに入っていた葡萄酒を少し口に含み、そのまま唇を近づけてくる。
フィオーナは彼の唇を拭注がれた。そうして、少量の葡萄酒を口に流し込まれる。
ゴクンとそれを飲み干したとき、唇が離れる。彼の燃えるような眼差しに射すくめられ、フィオーナは小さく息をついた。
初めてのキス……。
それは紛れもなく、フィオーナが初めてしたキスだった。
彼はグラスをテーブルに置いた。そして、もう一度ゆっくりとキスをしてくる。
唇が重なるだけでなく、舌を差し込まれる。息もつけない。
ああ、誰かわたしを助けて!
けれども、なんのために助けを求めているのか、自分でも判らない。ただ逃げたかった。己のしていることがあまりにも恐ろしすぎて手か。
これはしてはならないことだと判っている。国のためを想うなら、絶対にしてはならない。キスくらい、婚約者には判らないだろうという考えは、大間違いだ。
教会で愛を誓うときに、他の男性とこんな魂を奪われるような激しいキスをしたことを、絶対に思い出すに違いない。
そのとき……わたしは素知らぬふりをして、神の前で誓えるの?
ハンスに終生変わらぬ愛を誓えるの?
わたしには無理……!
心は粉々に壊れて、バラバラになりそうだった。彼は唇を離しては、また重ねる。それを何度も繰り返しているうちに、フィオーナの身体は燃え上がり、何も判らなくなっていた。そして、いつしかね自分から求めるように彼に舌を絡めていたのだ。
もう……ダメ。
二人きりになれば、こうなることが判っていたのに、どうしてのこのこと書斎についてきてしまったのだろう。けれども、自分ではどうしようもなかったのだ。とても止められなかった。止められるなら、それは本当の恋ではない。ただ身も心も、フィオーナは彼を求めていた。
彼の手がフィオーナの背中を撫で、腕を撫でさする。そして、胸のふくらみにも触れてくる。
「君には判っていたはずだ。私がこの桃のようにふくらみに心を奪われて、手を出さずにはいられなくなることを……」
「そ、そんなことは……」
「いや、君は誘っていたよ。身体で、目で、口元で……仕草で……」
そんなことはない。誘っていたのはグイードのほうだと言いたかったが、またキスをされて、何も言えなくなった。
荒々しい彼の仕草に惹かれる。上品なのに、どこか野性的で……。
たまらなかった。
「わたし……こんなつもりでは……」
「嘘をつくな。君も求めていた」
決めつけられてしまったが、確かに彼の言うとおりかもしれない。彼をどうしようもなく求めていた。
求めていなかったとか、悪いのは彼のほうだと言うのは嘘だし、彼への裏切りかもしれない。
でも……でも……。
わたしは彼に身を任せてはならない理由がある!
身を引き裂かれるような気持ちで、彼から離れようとした。しかし、彼はそれ許してくれなかった。逆に引き寄せられ、唇を深く奪われる。
彼はフィオーナが屈服することを望み、そして、待っていた。
身体が熱い。熱くてたまらない。とにかく彼の腕に抱かれて、我を忘れるほどすべてを奪ってほしかった。
「『上』へ行こう」
彼が何かを囁いた。