愛しの孔雀姫
~砂漠の夜は淫靡な香り~
琴見れい イラスト/北沢きょう
ナタリアは広大な砂漠を領地とするサッタール家の頭首ジャリルから求婚される。彼からの恋文に心奪われるナタリアだが「俺が本当の頭首だ」というラヒムに連れ去られ、彼に抱かれてしまい…? 発売日:2014年12月26日
~砂漠の夜は淫靡な香り~
琴見れい イラスト/北沢きょう
ナタリアは広大な砂漠を領地とするサッタール家の頭首ジャリルから求婚される。彼からの恋文に心奪われるナタリアだが「俺が本当の頭首だ」というラヒムに連れ去られ、彼に抱かれてしまい…? 発売日:2014年12月26日
「ナタリア」
ラヒムに口づけられ、はっとなる。覚えずうっとりしてしまって、少しも抵抗できなかった。
「やはりおまえの唇は美味だな」
そんなことを言って、ラヒムが再び唇を押しつけてくる。そしてすぐに舌を使って、ナタリアを翻弄し始めた。
ぬちゅ、と音をたてながら舌に舌を絡ませられ、酩酊感に襲われる。
昨日とまったく違う。昨日も彼の口づけにくらくらしたけれど、こんなに酔わされたようにはならなかった。
――やっぱり早くここを離れるべきだったんだわ……。
自分を呪いたくなるのは、ラヒムの口づけを心地よいと感じてしまうからだ。
身体の芯が甘くとけるような感覚……。
「ふ、ぁ……ぅう……ラヒ…ム…」
悪戯をしかけるみたいに舌先をちろちろ舐められ、背筋がわなないた。やめて欲しいのに、気づけばラヒムに身を任せている。
「もっと、口を開いてみろ」
そんなことできるはずがない。だけども何度も舌を翻されて、舌先を軽く吸われれば、どうしても口元が緩んでしまう。
「あ……ぅふ……」
口腔深くまで舌を押し込まれ、ナタリアは一瞬怯んだ。けれどねっとりと舌を擦りつけられ、口蓋を繰り返し舐められているうちに、また身体が熱くなって、意識がふやけたようになる。
いくら妖しい香りが漂っているからといって、こんな風になる自分はおかしいのかもしれない。そんな不安が過ぎるたび、香りの影響がそれほど強いのだと言い聞かせ、この状況を作ったラヒムを内心で責める。
いくら責めようと、火照った身体はそのラヒムに勝手に縋りつくのだが……。
「ん……ぅあ…」
唇が離れていく刹那、いやらしく唾液が糸を引く。そんな様にも嫌悪を感じるどころか、ぞくりと身震いしてしまう。
「どう、して……」
「ナタリア。楽にしてやるから、俺を信じろ」
優しく頬を撫でられ、ナタリアは身を引いた。
これ以上流されまいと、必死に己を律する。
「私は、私のすべては、ジャリルさまに捧げるつもりで……」
なんとか放った言葉は、失言だった。
「おまえは俺のものだと何度言えばわかるんだ? ナタリア」
一段と低くなったラヒムの声に背が震える。
「わかるわけ、ないです。私はあなたのことを、よく知りませんし……」
「ジャリルとは会ってもいないじゃないか」
「で、でも私は、ジャリルさまに――」
苛立ったラヒムが、ナタリアの両腕をぐっと摑んで顔を覗き込んでくる。
――瞳、が……。
ナタリアの胸は大きく高鳴った。
今の状況を一瞬忘れてしまいそうになるほど、彼の瞳に魅入られる。
青い瞳が色を濃くして、穏やかな海を思わせていたそれが熱を孕んで……。
まるで青い炎のようだった。
少し怖いくらいに美しい。
だから目が離せない。
「この肌に触れていいのは、俺だけだ」
ラヒムの手が、首筋を這う。細いナタリアの首を繰り返し撫でながら、時折指先で顎の線や首元を擽った。
「ひぅ……」
こそばゆいような、それだけでないような感覚に肩を竦める。すると今度は、ラヒムの手が胸へと向かってきた。
「俺にすべてを見せてみろ」
「な……。どういう意味ですか?」
嫌な予感がして両手で胸を隠そうとした。しかしラヒムのほうが一枚も二枚も上手であることは、ここへやってきてすぐに証明されている。
それゆえナタリアが纏った珊瑚色のカフタンは、ところどころが乱れているのだ。
今さらそんなことを思い出して慌てるが、何もかももう手遅れだった。
留め具が次々外されて、ただでさえゆったりとした作りのカフタンの前が大きく開いてしまう。
コルセットはなく、一応下着としてシュミーズを着ているがそれは透けるほど薄い素材でできている。ナタリアは羞恥で肌を赤く染めながら、我が身を抱いた。
俯いて身を小さくしていても、痛いほどにラヒムの視線を感じる。その視線にさえ、敏感になった肌が粟立つ。
「み、見ないでください」
「俺は、おまえの全部が見たいんだ、ナタリア。そしておまえをあまさず、俺のものにしたい」
じっと見つめられて、身体が動かなくなる。ラヒムが恐ろしいのではなく、彼の発した言葉に心をとらわれ、彼の存在感に圧倒されて、熱のある視線や甘い声で縛られたのだ。
――なぜ、こんなに彼は蠱惑的なの……。
いつの間にか着替えたのだろう。ラヒムは黒い衣装を身につけていた。手首から足首まで布で覆われているのは昼間着ていた服と同じだが、蔦が銀の糸で優雅に刺繍されていて、美しい。そのせいか、彼自身も昼間より凜々しく見える。
「お…俺のものにするって、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
腕を取り上げられ、いきなり手首の内側を舐められる。ナタリアはびくっと全身を弾ませて身を竦めた。
彼は手首に押しあててきた唇を手のひらへ向かって滑らせ、ナタリアの柔らかな手のひらの真ん中にそっと優しく口づけてきた。
「代わりに俺も、おまえのものになってやる」
服従でも誓うように、今度は手の甲へ唇が触れてくる。そんなことをされたら、またいっそう胸が高鳴ってしまう。
歯がゆい。昨日からずっとラヒムに振り回され、このままでは何もかもラヒムの望むまま……。
――私、どうなってしまうの……?
「あ、あなたの思うとおりにはなりませんから」
強がってみたものの声は吐息混じりで、どことなく甘えさえ含んでいる。
甘い芳香のなか、ラヒムが熱っぽい瞳で見つめ続けてくるから……。
「どれほど時間をかけてでも、おまえにわからせてやる。おまえは俺の妻になる定めなのだと」
静かな怒りを滾らせた瞳で宣言してきたラヒムが、開いた胸元に手を伸ばしてくる。
乱暴なことをされるのかと身構えたが、彼は薄布越しにやんわりと胸に触れてきた。
ナタリアは虚を衝かれ、うっかり黙って彼の手を受け止めてしまった。
胸の中心に添えられた手がゆっくりとうごめき、指先が左胸の膨らみに触れてきて初めて、ナタリアは「あっ」と声を上げる。
ラヒムは半端にはだけていたドレスの隙間にぐっと手を差し込んで、ナタリアの胸を手のひらで包み込んできた。
「可愛いな。俺の手にちょうど収まる」
「なっ……」
暗に小さいと揶揄された気がして、一瞬憤りを覚えた。でもふっと笑って見つめてきたラヒムは心底嬉しそうな顔をしていて、ナタリアは怒り損ねてしまった。
――こんな顔も、するんだ……。
そんな風に思ってちょっとぼんやりしていたナタリアはまたはっとなる。
「まっ…。何するの」
ラヒムに口づけられ、はっとなる。覚えずうっとりしてしまって、少しも抵抗できなかった。
「やはりおまえの唇は美味だな」
そんなことを言って、ラヒムが再び唇を押しつけてくる。そしてすぐに舌を使って、ナタリアを翻弄し始めた。
ぬちゅ、と音をたてながら舌に舌を絡ませられ、酩酊感に襲われる。
昨日とまったく違う。昨日も彼の口づけにくらくらしたけれど、こんなに酔わされたようにはならなかった。
――やっぱり早くここを離れるべきだったんだわ……。
自分を呪いたくなるのは、ラヒムの口づけを心地よいと感じてしまうからだ。
身体の芯が甘くとけるような感覚……。
「ふ、ぁ……ぅう……ラヒ…ム…」
悪戯をしかけるみたいに舌先をちろちろ舐められ、背筋がわなないた。やめて欲しいのに、気づけばラヒムに身を任せている。
「もっと、口を開いてみろ」
そんなことできるはずがない。だけども何度も舌を翻されて、舌先を軽く吸われれば、どうしても口元が緩んでしまう。
「あ……ぅふ……」
口腔深くまで舌を押し込まれ、ナタリアは一瞬怯んだ。けれどねっとりと舌を擦りつけられ、口蓋を繰り返し舐められているうちに、また身体が熱くなって、意識がふやけたようになる。
いくら妖しい香りが漂っているからといって、こんな風になる自分はおかしいのかもしれない。そんな不安が過ぎるたび、香りの影響がそれほど強いのだと言い聞かせ、この状況を作ったラヒムを内心で責める。
いくら責めようと、火照った身体はそのラヒムに勝手に縋りつくのだが……。
「ん……ぅあ…」
唇が離れていく刹那、いやらしく唾液が糸を引く。そんな様にも嫌悪を感じるどころか、ぞくりと身震いしてしまう。
「どう、して……」
「ナタリア。楽にしてやるから、俺を信じろ」
優しく頬を撫でられ、ナタリアは身を引いた。
これ以上流されまいと、必死に己を律する。
「私は、私のすべては、ジャリルさまに捧げるつもりで……」
なんとか放った言葉は、失言だった。
「おまえは俺のものだと何度言えばわかるんだ? ナタリア」
一段と低くなったラヒムの声に背が震える。
「わかるわけ、ないです。私はあなたのことを、よく知りませんし……」
「ジャリルとは会ってもいないじゃないか」
「で、でも私は、ジャリルさまに――」
苛立ったラヒムが、ナタリアの両腕をぐっと摑んで顔を覗き込んでくる。
――瞳、が……。
ナタリアの胸は大きく高鳴った。
今の状況を一瞬忘れてしまいそうになるほど、彼の瞳に魅入られる。
青い瞳が色を濃くして、穏やかな海を思わせていたそれが熱を孕んで……。
まるで青い炎のようだった。
少し怖いくらいに美しい。
だから目が離せない。
「この肌に触れていいのは、俺だけだ」
ラヒムの手が、首筋を這う。細いナタリアの首を繰り返し撫でながら、時折指先で顎の線や首元を擽った。
「ひぅ……」
こそばゆいような、それだけでないような感覚に肩を竦める。すると今度は、ラヒムの手が胸へと向かってきた。
「俺にすべてを見せてみろ」
「な……。どういう意味ですか?」
嫌な予感がして両手で胸を隠そうとした。しかしラヒムのほうが一枚も二枚も上手であることは、ここへやってきてすぐに証明されている。
それゆえナタリアが纏った珊瑚色のカフタンは、ところどころが乱れているのだ。
今さらそんなことを思い出して慌てるが、何もかももう手遅れだった。
留め具が次々外されて、ただでさえゆったりとした作りのカフタンの前が大きく開いてしまう。
コルセットはなく、一応下着としてシュミーズを着ているがそれは透けるほど薄い素材でできている。ナタリアは羞恥で肌を赤く染めながら、我が身を抱いた。
俯いて身を小さくしていても、痛いほどにラヒムの視線を感じる。その視線にさえ、敏感になった肌が粟立つ。
「み、見ないでください」
「俺は、おまえの全部が見たいんだ、ナタリア。そしておまえをあまさず、俺のものにしたい」
じっと見つめられて、身体が動かなくなる。ラヒムが恐ろしいのではなく、彼の発した言葉に心をとらわれ、彼の存在感に圧倒されて、熱のある視線や甘い声で縛られたのだ。
――なぜ、こんなに彼は蠱惑的なの……。
いつの間にか着替えたのだろう。ラヒムは黒い衣装を身につけていた。手首から足首まで布で覆われているのは昼間着ていた服と同じだが、蔦が銀の糸で優雅に刺繍されていて、美しい。そのせいか、彼自身も昼間より凜々しく見える。
「お…俺のものにするって、どういう意味ですか?」
「そのままの意味だ」
腕を取り上げられ、いきなり手首の内側を舐められる。ナタリアはびくっと全身を弾ませて身を竦めた。
彼は手首に押しあててきた唇を手のひらへ向かって滑らせ、ナタリアの柔らかな手のひらの真ん中にそっと優しく口づけてきた。
「代わりに俺も、おまえのものになってやる」
服従でも誓うように、今度は手の甲へ唇が触れてくる。そんなことをされたら、またいっそう胸が高鳴ってしまう。
歯がゆい。昨日からずっとラヒムに振り回され、このままでは何もかもラヒムの望むまま……。
――私、どうなってしまうの……?
「あ、あなたの思うとおりにはなりませんから」
強がってみたものの声は吐息混じりで、どことなく甘えさえ含んでいる。
甘い芳香のなか、ラヒムが熱っぽい瞳で見つめ続けてくるから……。
「どれほど時間をかけてでも、おまえにわからせてやる。おまえは俺の妻になる定めなのだと」
静かな怒りを滾らせた瞳で宣言してきたラヒムが、開いた胸元に手を伸ばしてくる。
乱暴なことをされるのかと身構えたが、彼は薄布越しにやんわりと胸に触れてきた。
ナタリアは虚を衝かれ、うっかり黙って彼の手を受け止めてしまった。
胸の中心に添えられた手がゆっくりとうごめき、指先が左胸の膨らみに触れてきて初めて、ナタリアは「あっ」と声を上げる。
ラヒムは半端にはだけていたドレスの隙間にぐっと手を差し込んで、ナタリアの胸を手のひらで包み込んできた。
「可愛いな。俺の手にちょうど収まる」
「なっ……」
暗に小さいと揶揄された気がして、一瞬憤りを覚えた。でもふっと笑って見つめてきたラヒムは心底嬉しそうな顔をしていて、ナタリアは怒り損ねてしまった。
――こんな顔も、するんだ……。
そんな風に思ってちょっとぼんやりしていたナタリアはまたはっとなる。
「まっ…。何するの」