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皇帝は夜伽をこいねが
ねじれた初恋と秘された執愛
あまおうべに イラスト/蔀シャロン
将軍の娘エルヴィラと皇帝アスタロスは兄妹のように育った。だが、二年前の騒乱が原因で、明るかったアスタロスは変わった。反逆者の中にはエルヴィラの父もおり、エルヴィラは無実だと訴えたものの、極刑に処されてしまう。そのせいでエルヴィラはアスタロスに対して心を閉ざしたが宮殿に呼ばれ、彼のそばで暮らすよう命じられてしまう。そんな中、アスタロスの愛犬が殺害される。ひどく落ち込む彼に触れられ、なぜか抵抗できないエルヴィラは…? 配信日:2017年3月31日 


 くちびるが重ねられようとしていることに気づいたとたん、とっさに大きく顔を背けてしまう。
(それは…っ)
 それは恋人たちがすることだ。
 過去の自分たちにのみ、許された行為。
 今は――とてもふさわしいとは思えない。
 アスタロスは一瞬、顔をゆがめたようだった。
 しかし深追いしてくることはなく、エルヴィラの背に腕をまわし、手荒くドレスの結び目を紐解いていく。
 重ねて身につけたボディスやアンダースカート、コルセットまで、彼は焦れたような手つきですばやく取り除いていった。
「まっ、待って…っ」
「待ったさ。二年も」
 苛立ちを孕んだ答えに、「でも…」と視線をさまよわせる。
 まごまごしているうち、あっというまに、絨毯の上で一糸まとわぬ姿にされてしまった。
 赤々と燃える暖炉の炎は、何もかもを明るく照らしだす。
 山のようなドレスの生地に埋もれながら、いたたまれなさに胸を隠し、身体を縮こめた。
 アスタロスは、そんなエルヴィラを両腕のなかに閉じ込めるようにして、おおいかぶさってくる。
 そして間近からしげしげと見下ろしてきた。
「………」
 エルヴィラは恥ずかしさに目を逸らす。
 まるで獣の前で、食べられるのを待つばかりのウサギになった気分だ。
 くちびるを引き結んでいると、彼は熱っぽい声音で言う。
「おまえでも、そんな顔をすることがあるんだな」
「顔…?」
「心細げに困惑する顔だ。…いつも不機嫌そうな仏頂面なのに」
 大きな手のひらが、裸の背中を無遠慮になでまわしてきた。
 さらに彼は、むき出しの肩に口づけてくる。
「不安そうなおまえは、かわいい」
 優しい声。
 一瞬、まるで昔にもどったかのような気分になった。
 縮こめていた身体から、少しずつ力が抜けていく。
 エルヴィラが腕の中にいるという余裕からか、彼はごく穏やかにささやいてきた。
「…おまえが欲しい。すべて俺のものにしたい」
 大きな手がエルヴィラの肩にふれ、丸めていた身体を仰向けにさせる。
 視線がからみ合い、息を呑んだ胸の狭間に、彼はゆっくりと口づけてくる。
 そうしながら、ふくらみを隠していたエルヴィラの手を、そっとどかしてしまった。
 代わりに自分の手で包み込んでくる。
「…………ぁっ」
 試すように指をくいこませ、やわやわと揉みしだく。
「やわらかい。それに、温かいな」
 すくうように持ち上げたふくらみに、アスタロスは自分の頬を押し当ててきた。
「心臓がドキドキしている。…こわいか?」
「…べつに――ぁ、や…っ」
「やっぱり生意気だ」
 そう言いながら、胸の先端を口に含む。
「……っ」
 温かく、ぬるりとした感触に包まれ、エルヴィラは息を呑んだ。
 熱い舌がぬるぬるとそこを這う未知の感覚は、あまりにもなまめかしく、卑猥に感じてしまう。
 こんなことをしてよいものかと、きまじめに自問した端から、それが序の口に過ぎないことを思い知らされた。
 舐められた先端は、ちりちりと硬くなっていき、ぬるりとした舌の感触をより微細に感じ取ってしまう。
 するとますます硬くなり――
 と、それを喜ぶかのように、舌はくり返しそこを転がすように舐めしゃぶった。
「んっ…、や…っ…」
 淫猥な心地よさに、じっとしていられなくなる。
 とまどい身じろぐ中、反対側のふくらみでも指先が頂を執拗にいじった。
 指の腹でくすぐられるうち、平らかだったそこは、またたくまにきゅぅっと凝っていく。
「勃ってきた」
 悦に入ったように言い、彼はつんと勃った粒を指の腹にはさみ、くりくりと転がしながらつまみ上げてくる。
「…ふ、…っ」
 背筋が甘く痺れ、エルヴィラは悩ましい吐息をこぼした。
(わたし…どうなっちゃうの…?)
 ひとりでに涙でうるむ瞳を、頼りなくさまよわせる。
 その視線の先で、アスタロスは相変わらず自在に形を変える胸を手の中で弄んでいた。
 弾力を愉しむかのように、片手でふくらみを捏ねまわす間にも、彼のくちびるは硬くなった先端を深く咥え、舌をからませてくる。
 尖らせた舌先で乳輪をひとめぐりされると、びくん、と身体が痙攣した。
 その反応を見逃さず、彼はさらに快感を煽るように先端を吸い上げてくる。
「――んぅ…っ」
 舌を巻きつけるようにして強く吸われたエルヴィラは、胸の奥まで疼く愉悦に、はしたなく身体をくねらせた。
「ぁ…やぁ、ぁ、ぁ…っ」
 そそけたつような甘美な刺激に、胸を反らしてはかなく喘ぐ。
 顔の横に力なく投げ出された、エルヴィラの両手にちらりと目をやり、アスタロスが言った。
「頭をなでてくれ」
「え…?」
「最中に頭をなでられるのが好きなんだ。だから――」
「………」
 アスタロスの頭をなでる? 自分が?
 そんな展開になるとは思いもしなかった。
 けれど――
 求めに従い、おずおずと黒い髪にふれる。
 そっとかきまぜると、彼はおとなしく、エルヴィラの手に頭をゆだねてきた。
 まるで子供のようだ。
 身体だけではなく、心までもが甘くおののいてしまう。
 エルヴィラはもう片方の手も添え、両手でなでた。すると。
「エルヴィラ…」
 彼がうっとりとつぶやく。
 口腔が、いっそう熱をこめて胸をしゃぶり始めた。
「…んっ、…ん、ぁっ…ぁ…っ」
 ちゅくちゅくと音をたてて吸いながら、舌先で先端をちろちろとくすぐられると、ひときわ甘い刺激に、なでていた彼の頭をきゅっと抱きしめてしまう。
「…ふぁ…っ」
「フ…」
 アスタロスがやわらかく笑う気配がした。
 うれしそうにしながら、彼の手は下肢へと移動していく。
「ここはどうなってる?」
「えっ…」
 指が割れ目をなぞる感触に、ひくりと腰が跳ねた。
「だっ、ダメ。そこは…っ」
「なにが」
「なにがって…――ぁっ、あぁ…っ」